紹介するのは、Vice のテクノロジー系サイト Motherboad の記事「アメリカで最も悪名高いネオナチ過激派集団は、YouTube と Steam に自由に投稿している」（Emanuel Maibergand and Matthew Gault, "One of America's Most Notorious Neo-Nazi Extremist Groups Is Posting Freely to YouTube, Steam", Motherboard, 2018/02/24）。
1月、アメリカのカリフォルニア州オレンジ郡で、高校時代の同級生の男性を殺害した容疑で20歳の男性が逮捕された。事件後、非営利調査報道メディアの ProPublica が、この容疑者が“Atomwaffen Division”（“Atomwaffen”はドイツ語で「核兵器」を指し、「核兵器師団」といった意味となる）という名の武装ネオナチ・グループに属し、そのトレーニング・キャンプに参加していた事実を報じた（ProPublica, 2018/01/26）。その後、ProPublica は、チャット・ログのリークを用いて、グループの内幕を明らかにしている（ProPublica, 2018/02/23）。
Motherboard の記事はこれらの報道を受けながら、この殺戮をおおっぴらに唱える白人至上主義集団のコンテンツが YouTube や Steam のようなポピュラーなプラットフォーム・サービス上に存在していること、そして、そういった事例が珍しくないことを問題にしている。
粗悪なモデレーション
以下、Motherboard 記事より抜粋：
金曜日、ProPublica は、この非営利報道機関が「この国で最も悪名高い過激派集団の一つ」と呼ぶネオナチ団体 Atomwaffen Division の内幕を報じた。
Atomwaffen Division メンバーのサミュエル・ウッドワード（Samuel Woodward）は、1月に、同性愛者でユダヤ系の19歳のブレイズ・バーンスタイン（Blaze Bernstein）を殺害した疑いをかけられている。ProPublica の入手した Discord のチャット・ログは、組織がこの行為を祝っていたことを明らかにしている。ProPublica によれば、グループは、23の州に散らばった支部の下に約80人のメンバーを擁している。
2017年5月、フロリダ州の捜査当局は、Atomwaffen のメンバー、デヴォン・アーサーズ（Devon Arthurs）をルームメイト殺害の容疑と、タンパのショッピング・モールで銃を振りかざした容疑とで逮捕した。この1月には、Atomwaffen に影響された別の人物、ニコラス・ギアンパ（Nicholas Giampa）が、二人の関係を裂こうとしたガールフレンドの両親を殺害した疑いで逮捕されている。ProPublica が入手したチャット・ログのリークは、Atomwaffen のメンバーたちが、インフラストラクチャーを攻撃して、合州国を不安定化させることを意図した叛乱風の戦術を議論している様子を明らかにしている。
Atomwaffen Division の制作した YouTube 動画はいまだにオンラインで、巨大ゲーム・プラットフォーム Steam にいる同名のグループも同様である。
「熱狂作戦」と名付けられた一つの YouTube 動画は、覆面のグループ・メンバーたちが「ユダヤ人どもをガス室送りにしろ、今こそ人種戦争の時！」と叫び、銃を発砲する姿を写している。動画に付けられた警告表示は、動画が YouTube コミュニティによって「一部の視聴者にとって不適切または不快なもの」と認められた、と述べる。これが意味するのは、ユーザーは、動画を見る前に「理解して次に進む」と書かれたボタンをクリックしなければならない、ということ、そして、コメントや視聴回数といった一部の機能が無効化されている、ということである。
私たちはまた、グループのウェブサイトと YouTube アカウントへのリンクが張られた Atomwaffen Division の Steam グループを見つけた。私たちは、Steam グループのメンバーにコメントを求めたが、このグループが Atomwaffen Division を何らかの公式的立場で代表するものなのかは確認することができなかった。
Steam グループに属しているのはわずか17人のメンバーであるが、彼らのアカウントは、ナチスの形象と Atomwaffen 流のプロパガンダの不穏な寄せ集めとなっている。グループの紹介文は、その人種主義的世界観をはっきりと表明している。一人のメンバーは「100％純血アーリア人」（PURE ARYAN 100%）の表示名を用い、サウスカロライナ州の大量殺人犯ディラン・ルーフ（Dylann Roof）の写真をアバターにしていた。〔……〕
グループの別のプロフィールは、「『SIEGE』を読み、人種戦争に備えよ」と人々に勧めている。『SIEGE』とは、著名な過激派のネオナチ、ジェームズ・メイソン（James Mason）の文章を集めた500ページの大冊である。Atomwaffen は、この本を発行し流通させているいくつかのグループの一つなのだ。
Steam には、大量のヘイト・グループがいる。最近私たちが報じたように、Steam は学校銃乱射犯の人種主義的書き込みを何年にもわたって放置していた。運営会社の Valve は、ヘイトと人種主義のこととなると無干渉主義的なアプローチを取っており、2017年10月以来、この問題についてのたびたびのコメントの求めに対して、いまだに回答していない。〔……〕
YouTube もまた、コンテンツの管理（moderation）については Valve とほとんど変わらず粗悪である。Motherboard の以前の調査では、YouTube が「イスラム国」のコンテンツを取り下げるまで毎回のように数週間放置していたことが明らかとなっている。そしていまや、合州国内の過激主義運動がコンテンツ管理に対する同じ態度を利用しているわけである。
YouTube と Valve にコメントを求めたが、すぐに回答を得ることができなかった。
プラットフォームの責任
ProPublica の調査の概要は YouTube 動画としても公開されている。
Inside the Secret Chat Logs of American Nazis | ProPublica
Motherboard 記事の終わりのほうで触れられている「学校銃乱射犯」云々というのは、2017年12月にニューメキシコ州のアズテック高校で21歳の元生徒の男性が生徒2人を射殺し自殺した事件への言及。事件後、容疑者が、ネオナチ／オルト・ライト系のウェブサイトに出入りし、コロンバイン高校銃撃事件について熱心に書き込み、ドナルド・トランプを礼賛し、ナチスと闘うFPSゲーム古典『Wolfenstein 3D』（1992年）への不満を述べてナチスによる虐殺を擁護するレビューを Steam に投稿していたことが報じられた（The Daily Beast, 2017/12/15、Motherboard, 2017/12/21）。
訳しながら気にかかったのだが、インターネット用語としての“moderation”という言葉には日本語訳が未だにないのだろうか？ 検索すると、「デジタル大辞泉」には、この意味での「モデレーション」が記載されているようだ（コトバンク、2018/02/27アクセス）。逆に言うと、適当な訳語はない、ということでもある。
２ ブログやSNS、インターネット上の記事に投稿された読者によるコメントに対し、管理者が内容をチェックしたり、別の読者が評価付けをしたりすること。また、その仕組み。不適切な投稿を除外するはたらきがある。モデレーション機能。
ただ、この「デジタル大辞泉」の定義も、いくらか古めかしく聞こえる。YouTube のようなプラットフォームで、「モデレーション」という場合、問題とされるのは、投稿される動画とそれに対するコメントの両方だ。もう少し言えば、個々のコンテンツだけでなく、それらのコンテンツをアップするチャンネルそのものに対するモデレーションの問題がある。
たとえば、自殺者の遺体の映像を投稿するチャンネル（参考：CNN日本語, 2018/01/11）、銃撃事件のサバイバーの高校生を「役者」だと言い張る陰謀論者のチャンネル（参考：CNN日本語, 2018/02/22）、こういったものをプロモートしてしまうプラットフォームの運営側の責任が語られるわけである。
【追記】（2018/03/07）
ProPublica の3月7日付けの記事が、ProPublica による報道後に、Discord が Atomwaffen Division のサーバーを削除し、次いで、Motherboard と The Daily Beast による報道後に、YouTube と Steam とがそれぞれ彼らのチャンネルとグループを削除したことを報じた。
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