【海外記事紹介】「Valve の最近の検閲の動きを祝う謎めいたグループを暴く」(Gamasutra)

Steam の「ポルノ・コンテンツ」規制?

画像:National Center on Sexual Exploitation ウェブサイトより

 紹介するのは、ゲーム開発者向け情報サイト Gamasutra に寄せられたコラム「Valve の最近の検閲の動きを祝う謎めいたグループを暴く」(Katherine Cross, "Opinion: Illuminating the shadowy group celebrating Valve's latest censorship drive", Gamasutra, 2018/05/22)。性的な内容を含むビジュアル・ノベル系のゲームをめぐってゲーム配信サービス Steam 上で起きた騒動の背景を探った記事である。

 今月17日、複数のビジュアル・ノベル系ゲーム開発元が、Steam の運営会社 Valve から、「ポルノ・コンテンツ」(pornographic content)に修正を加えるか、ストアからゲームを撤去するか、を迫る通告を受けたことをツイッター上で報告した。19日になって彼らは、「誤解を招いた」とする謝罪を Valve から受けたことを報告しているが、販売中のゲームに対する「再検討」(re-review)のプロセスそのものは進行中だともいう(Polygon)。

 ガイドラインに則って販売を認められていたはずのゲームに対する一方的な方針転換、『The Witcher』シリーズのような、あからさまなセックス・シーンを含む大作にそんな通告が出されている気配はない、など一貫性や透明性を欠く Valve の動きに反発が寄せられる最中、ある組織が「自分たちの2年にわたるキャンペーンの成果」と勝利宣言を出した。記事は、このフェミニスト風のレトリックで擬装した宗教保守グループについて詳細な情報を提供している。

擬装されたキャンペーン
 以下、Gamasutra 記事より抜粋:

Steam の最近の「性的に露骨なコンテンツ」に対する方針転換をめぐる物議の最中、一つの祝勝が注意をあまり引くことなく発せられた。「性的搾取全国センター」(National Center on Sexual Exploitation, NCOSE)と名乗る提唱グループがニュースに歓喜し、息を切らせるように「勝利!」を宣言したのである。


NCOSE は1962年に、クリスチャンの宗派を超えた「反‐わいせつ」団体、「メディアにおける道徳」(Morality in Media)として創設された。イメージ変更戦略が取られたのは2015年のことで、あからさまな保守派キリスト教色は、目立ちにくいレトリックのなかに覆い隠されるようになったのである。彼らは現在、自分たちの使命を「人間の尊厳を守り、性的搾取に反対する」ものと説明している。


メインストリーム的な今日性を獲得しようという彼らの企ては、フェミニスト的なレトリックの取り込みにも現れている。たとえば、「私たちは、Steam が、性的暴力がはびこり常態視されている 私たちの #MeToo 文化の現状を変えるべくリーダーシップを取ろうとしていることに感謝します」といった具合に。


レトリックを別とすれば、この組織は断固として右翼的なものだ。彼らは、保守派のブログやニュース組織で人気の「専門家情報源」であり、代表のパトリック・トルーマンは、第1期ブッシュ政権に仕えた人物で、彼を含む何人かの役員はカトリック教会と結びついた人々である。団体のツイッターは、他の保守派の反ポルノ活動家をプロモートしている。「ニューヨーク州におけるあらゆる物事に、生命尊重(pro-life〔人工中絶反対〕)・家族尊重(pro-family)の保守派クリスチャン的な視点を提供する」と謳うニューヨークの無名の団体 NY Families もその一つだ。NCOSE は、ポルノは州によって「公衆衛生上の危機」と宣言されるべき、という彼らのスタンスに同意しているのである。


NCOSE は、ゲームにおける本物の検閲を進めようとする団体の典型だ。政治的に保守派で、財政基盤を持ち、政府や企業ロビーといった有力な諸機関とのつながりを持っている。NCOSE の場合、有力なコネを持つ役員メンバーに加えて、第2期ブッシュ政権の司法省から、「わいせつに関する苦情」を投稿するオンライン・データベースの創設にあたって助成金を受けてもいた。彼らは67,000を超える苦情を集め、司法省に提出したが、結局、一件の訴追にもいたらなかったのである。


NCOSE は巧みに——そしてうんざりさせることに—— #MeToo の機運を、女性たちを傷つける右翼的なアジェンダの推進のために盗用した。現実の暴力のサバイバーたちの血や汗や涙によって勝ち取られたメインストリームの信頼のなかに自ら擬装しようとしているのである。〔……〕その過程で、皮肉にも彼らは、MeToo の名を些末な物事に結びつけることで MeToo 運動それ自体の信頼性を傷つけているのである〔……〕。


NCOSE の「良識」の名による撲滅キャンペーンが、女性と性的少数者を最も傷つけることを、私たちは歴史の経験から知っている。〔……〕比較的穏やかな内容のレズビアンに関するゲーム(『Kindred Spirits on the Roof』〔『屋上の百合霊さん』〕)が「性的に露骨なコンテンツ」をめぐるモラル・パニックに飲み込まれたことに、驚くべきではないのである。

「自覚的」と見られることを望みながらも、政治的リテラシーを欠く企業は、NCOSE のような、さしさわりのない名前とありきたりの目的とを掲げるグループに騙されるかもしれない。結局、いったい誰が人間の尊厳に反対するだろう? だが、これらのグループが実際に求めていることは誰の尊厳とも一切関わりがなく、性的表現と性的労働をともに犯罪化する伝統的なジェンダー秩序の復興にこそ関わっている。テック業界の誰一人として、そんなものに関わろうとすべきではない。

「ポルノ」をめぐる線引きの困難と社会的コスト

 記事の著者キャサリン・クロスは、大学院で社会学を学ぶフェミニストのゲーム批評家。彼女は、 Gamasutra へのもう一つの寄稿では、『Analogue: A Hate Story』(2012)、『Ladykiller in a Bind』(2017)で知られるビジュアル・ノベル・ゲーム作者のクリスティン・ラブ(Christine Love)のコメントを紹介している。ラブは、自身の作品に対して通告を受けなかったものの、この動向に懸念を表明している。

ここで最悪なのは、これが自分たちの作品を検閲したりできないクリエイターに対して不釣り合いに影響を及ぼすことだと思う。もし性的なテーマを表層的にだけ扱って、簡単に取り除くことができるようなゲームを作るのが安全で、セクシュアリティがゲームにとって不可分な要素で単純にパッチで取り除いたりできないようなゲームを作るのが安全でないのだとしたら、それは、ゲームを今以上に表面的なセクシー・コンテンツに向かわせる、倒錯した結果をもたらすでしょう。

 著者キャサリン・クロスの観点は、「ポルノ」禁止論は「ポルノ」を定義することの不可能性に直面せざるをえない、というものである。エロティック・アートに対する文化的な批判は不可欠だが、ポルノ禁止論は可否以前に、何が「ポルノ」かをめぐるカテゴリーの泥沼にはまりこみ、そこでまた、性をめぐる表現の可能性を狭めるような、安易な狙い撃ちがなされるようになるのである。

一人の批評家として、私が HunieDev のゲームに軽蔑のまなざしを向けたくなることはあるかもしれないが(そして実際、彼らが Valve の動きを「ワイフ・ホロコースト」と名付けた事実は状況をよくするものではない)、とはいえ、彼らがプラットフォームから消えることを望む理由はない。


ビジュアル・ノベル『屋上の百合霊さん』は、長い物語のなかにわずかなセックスしか含まないにもかかわず、Valve の検閲の動きにつかまった。明らかに、乳房の露出が、Valve のパターナリズムを招いたのである。このゲームも「再検討」(re-review)を受けている最中である。

『百合霊さん』の Steam レビューの一つは、こうしたゲームを禁止することには社会的なコストが伴うことを明らかにしている。

なんてこった、買って損なし。自分はどちらかというと保守派なのだけれど(このビジュアル・ノベルはレズビアンの関係に焦点を当てている)、このビジュアル・ノベルが青少年の恋愛について多くのことを教えてくれると認めなければいけない。自分は最近になって自分の世界についての見方を疑おうとしているのだけれど(同性愛など)、こういうビジュアル・ノベルは本当によい足がかりになっている。これだけは言わせて欲しい、エンディングが素晴らしい。

0 件のコメント:

コメントを投稿

投稿されたコメントは管理人が承認するまで公開されません。