【海外記事紹介】「任天堂の新しいゲームは、障害を持つ人々にとってみすぼらしいものとなっている」(Medium)

イノベーションと負の側面

 紹介するのは、マーク・ブラウンの Medium への寄稿「任天堂の新しいゲームは、障害を持つ人々にとってみすぼらしいものとなっている」(Mark Brown, "Nintendo’s New Games Are Miserable for People With Disabilities", Medium, 2018/11/08)。ブラウン氏は、ゲーム・デザインの鮮やかな分析で定評のある、YouTubeの人気ビデオ・エッセイ・シリーズ“Game Maker's Toolkit”のクリエイターである(一部は日本語字幕も利用可能な、氏のチャンネルについては、別の記事を参照)。

 記事のテーマは「アクセッシビリティ」(accessibility)。直訳すれば「近づきやすさ」を意味するこの単語は、誰にとっても扱うことが容易な設計、とりわけ年齢や障害の有無にかかわらず利用可能である設計を意味して用いられる。

 ブラウン氏の記事は、「手軽で直感的な操作」といったふうにもてはやされるある種のイノベーションが、実際のところ、従来ゲームにアクセスできていた人々を容赦なく閉め出す結果になっている場合があることに注意をうながしている。

 任天堂の日本語公式ウェブサイトには、「『Nintendo Switch™』は、プレイシーンにあわせてカタチを変えるゲーム機。いつでも、どこでも、気の向くままに、自由なスタイルでゲームを楽しむことができます。」とあるが、障害者の視点から見るとき、全く違った風景が見えてくるのである。

「いつでも、どこでも、誰とでも(ただし障害者を除く)」

イノベーションには、語られない負の側面がある。新たなテクノロジーへの努力が特定の人々を置き去りにしてしまうことがあるのだ。ヴァーチャル・リアリティーやタッチスクリーン、3Dテレビといったアイディアは、私たちの大多数にとって新たな経験を約束するかもしれない。だが、障害を持つ人々にとっては、乗り物酔いや筋肉痛、さらに酷いものを意味するかもしれないのである。

イノベーションと障害のギャップは、ビデオ・ゲームにおいて大きな問題であり、そして、ある会社はこの問題への取り組みにおいてとりわけ杜撰な仕事をしている。任天堂は、新しいゲーム機 Nintendo Switch の成功で波に乗っているが、障害を持つ人々は同社のゲームを楽しむために苦闘しているのである。障害を持つゲーマーたちは、『スーパーマリオ オデッセイ』のようなヒット作をプレイしながら直面した苦難について不満を述べている——それも、彼らがそもそも Nintendo Switch のゲームがプレイできた場合の話だ。というのも、これらのゲームは、手首の素早いひねりや、コントローラーの振動感知を要求する、やっかいなインタラクションでいっぱいだからである。任天堂は回答の求めに対して期日までに返答をしなかった。

Nintendo Switch のこれらの問題は、実際のところ、同社の製品に何年も前からつきまとっている。同社のゲーム機 Wii は、2006年に発売されたが、やはり革新的なモーション・コントロールに頼るもので、少なからぬ人々をシステムから閉め出したのである。Wii が誰にとっても扱いやすいこと(accessibility)をデザインの中心に置いたとされていたことを思えば皮肉なことだ。


突然、ゴルフ・ゲームをプレイすることは、パターのハンドルのようにコントローラーを握ってテレビに向かって振る、といった風に直感的なものとなったのである。Wiiリモコンは、テニス・ラケットや野球バットや指揮棒や楽器、剣や銃に魔法のように変身できるものだった。

これは宮本茂が望んだように、全く新しい層にゲームを開くものだった。〔……〕だが、ある種の障害を持つ人々にとっては、Wiiリモコンは完全にアクセス不可能なものであったのである。


任天堂のゲームという枠を超えて見渡せば、ゲームがかつてよりアクセッシブルなものになっていることに気が付くだろう。ゲームの製作者たちは、自分たちのゲームをさまざまな障害に対応可能にする方法を見つけてきたのである。

色を切り替えていくことで遊ぶパズルゲーム『Hue』はシンボルを加えることで、色盲の人でもプレイ可能にしている。『フォートナイト』は、足音や銃声を視覚的に翻訳するオプションを加えることで聴覚に障害のある人々を助けている。Nintendo Switch の主要なライバルであるプレイステーション4と Xbox One はともに、どのボタンが何をするかについて完全に変更することを許している。

なかでも最良の例は、マイクロソフトの発表した、Xbox One と PC のための新しい順応型コントローラー(Adaptive Controller)だ。この小洒落たカスタマイズ可能な装置は、車イスに装着可能で、足用コントローラーにしたり、片手用ジョイスティックにしたり、簡単に押すことができるスイッチにしたりとあらゆる様式のアクセッシブルな入力装置へと組み立てることが可能なのだ。

だが、プレイステーション機種やMacとさえも(適切なアダプターを使うことで)互換性がある一方で、「このコントローラーが唯一活躍できない場所が、任天堂のゲーム機なんだ」——そう語るのは、障害を持つゲーマーのために活動している慈善団体 AbleGamers の代表スティーヴン・スポーン(Steven Spohn)だ。

スポーンは、順応型コントローラーの開発でマイクロソフトと協力したが、任天堂からは「協力の申し出を繰り返し断られてきた」という。

「障害のある人から、『Nintendo Switchを手に入れるところだ』という興奮気味のメールを受け取るたびに心が痛む。彼らは、どうやって Nintendo Switch をアクセッシブルにできるか知りたがるのだけれど、ほとんどの場合、僕らはそれをほんのわずかもよりアクセッシブルにすることができないからだ」と彼は語った。

任天堂は、いくつかのゲームについては、良質なアクセッシビリティ・オプションを用意している。格闘ゲーム『ARMS』はコントロールを完全にカスタマイズ可能だ。カラフルなシューティング・ゲーム『スプラトゥーン2』は、色盲のゲーマーに配慮している。『1-2-Switch』の詳細な音でのフィードバックは、ゲームを目の見えないゲーマーでもプレイ可能なものにしている。


だが全般的に言えば、2018年において、任天堂は、イノベーションやハードウェア新装置の追求のなかで障害のあるゲーマーを置き去りにしていない他のゲーム会社に対してかなりの遅れをとっている。任天堂が、ゲームを誰にとっても近づきやすいものにする、という自ら掲げる使命を本当に信じているのならば、もっと努力する必要がある。

遅れをとった任天堂

 ブラウン氏は以下の動画では、まさに他の制作者からデザインの最良の部分を学び取りつつ全く革新的なゲームを作り出すということについて、任天堂のゲームを絶賛していた。任天堂のゲームへの称賛(そして、Ubisoft のオープンワールドへの当てこすり)を惜しまない彼の言だけに、上の批判は重みのある指摘だろう。

ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルド オープンワールドにおける冒険| Game Maker's Toolkit
(日本語字幕利用可能)

 なお、マイクロソフトの「Adaptive Controller」については、日本発売は未定のようだが、日本語でも詳細を読むことができる(参考:endgadget 日本語版ITmedia)。日本語での正式名がないため、「順応型コントローラー」という仮の直訳を当てた。

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