本題の記事の紹介の前に、たとえば、こういう報道。
「ソフトバンク、米で500億ドル投資へ 孫氏、トランプ氏会談で約束」(AFPBB日本語)
「ソフトバンク、米国に5.7兆円投資へ トランプ氏が『手柄』を強調」(CNN日本語)
読み比べると、CNNの記事は見出しでトランプ氏の誇張を示唆し、「〔ソフトバンクは〕米大統領選に先立つ今年10月には、サウジアラビア政府と共同で1000億ドルの基金を設立し、世界のIT企業に投資するとの合意に達していた。」とも述べているが、会談で約束された500億ドルというのがこのトランプ勝利以前に合意済みの1000億ドルの一部なのかそれと別のものなのか、はっきりしない書き方だ。
実際のところ、「マサ〔孫正義氏〕は、大統領選で我々が勝利しなければ投資することはなかっただろうと話した」というトランプ氏のツイートに対して、すぐにウォール・ストリート・ジャーナルやCNBCが、この500億ドル投資は、大統領選以前にソフトバンクがサウジアラビア政府と立ち上げた基金の1000億ドルから出されるもの、すなわち、前々から進められていたものであり新たな投資計画などではない、と指摘しウソを暴いたのだが、各社の速報が「トランプのもたらした巨額投資」という印象操作を無批判に広めてしまった後であった(Media Matters for America)。
要するに、トランプ氏は「『手柄』を強調」したのではなくて、存在しない「手柄」について語ったのである。
トランプ氏のホラはいつものこととして、問題は、そんな大ボラの機会をなぜソフトバンクが演出してあげたのか、ということに尽きる(公正を期して言えば、ソフトバンクが進んで演出しているというより、もっぱらトランプ氏側が会談について吹聴している印象だが)。Voxの記事(Matthew Yglesias, "Investors think Trump’s giving SoftBank regulatory favors in exchange for a nice press release: Hints of systematic corruption", Vox, 2016/12/07)を以下に抜粋しておこう。
ソフトバンクは実際のところなんら新しいことに合意していない。既存の投資プランをトランプにとっての大きな勝利と枠づけ直しただけである。トランプはそれと引き換えに何に合意したのか。誰の眼にもはっきりとしない。だが、ソフトバンクはスプリント〔アメリカで加入者数第4位の携帯電話事業者〕のメイン・オーナーで、発表のあと、スプリントの株価は約2%上昇した。
正確に言って、なぜそれが起きたのかを説明することは難しい。ただスプリントはT‐モバイル〔アメリカで加入者数第3位の携帯電話事業者〕を買収したいと数年前から語っている。そして、その買収は、4つの全国的携帯会社が3つになることは選択の幅を狭め料金を引き上げる、との観点からオバマ政権のFCC〔連邦通信委員会〕によって阻まれてきた。
要するに、投資家たちは、孫とトランプが、翌年に買収の前進が認められるとの合意に達した、と信じているようだ。その引き換えに、孫はアメリカでのソフトバンクの投資をトランプのリーダーシップによるものと枠づけ直すことに合意したというわけである。
ドナルド・トランプの無秩序に広がるビジネス帝国は、お決まりの金銭絡みの腐敗の機会を無数に生み出す。〔・・・〕しかしながら、より大きな脅威は、経済学者のジョン・ジョセフ・ウォリス(John Joseph Wallis)が「体系的な腐敗」(systematic corruption)と呼ぶもの、すなわち、18世紀の人々が懸念したような類の腐敗である。独立戦争期、著述家や活動家は、〔イングランド〕国王が彼の統治から私的に利益を得ることを心配していたのではなかった。そうではなくて、彼らは「国王や彼の大臣たちが、経済的特権の認可を、腐敗した非立憲的な政府権力の濫用に対する政治的支持確保のために恣意的に用いることを、より多く懸念していたのである。」
それは、ウラジーミル・プーチンがロシアを統治しているやり方であるし、〔ムハンマド・ホスニー・〕ムバラク/〔アブデル・ファタハ・アル・〕シシの体制がエジプトを統治しているやり方である。
体制を支持する者は規制監督者から好意的な扱いを受け、支持しない者は受けない。企業は互いに取引をするため、そのネットワークは自己強化的なものとなる。