一時的記憶喪失の患者に「トランプが大統領です」と伝える瞬間

 ほとんどパロディ・ニュースにしか見えないが(「はて、Slateってそういうサイトだったっけ?」と一瞬こちらが記憶喪失)、救急医の現場から見た「ドナルド・トランプ大統領」という現実をめぐる短い体験談「あなたの名前は? 私たちはどこにいますか? 大統領は誰? おや、大変。」(Jeremy Samuel Faust, "What Is Your Name? Where Are We? Who Is President? Oh God.", Slate, 2017/02/27)を紹介。
 記事を書いているのは、マサチューセッツ州ボストンのブリガム・アンド・ウィメンズ病院に勤務する医師で、患者が意識に障害を引き起こしていないかを確認するための単なるルーティンであったはずの質問が最近引き起こしている数々の反応が医師の目から語られている。

救急医として、私が軽んじることができないのは、患者が見当識をきちんと保っているかどうか、という問題だ。それを見極めるために、私は4つの基本的な質問をする。あなたの名前は何ですか? 私たちはどこにいますか? 今日はいつですか? アメリカ大統領は誰ですか?

〔・・・〕週に何回か、私の患者は大統領の質問を間違って答える。ジミー・カーターが人気のようだ。先週はある患者が、オバマが大統領だ、と答えた。私がオバマの任期は満了したことを教えると、彼はブッシュへと逆戻りした。

慢性的な痴呆から一時的な頭部の損傷まで、あらゆることが記憶のつまずきを引き起こす。だから、機敏で話題についてきて、私が彼らに伝えるニュースの重大性を理解するのに十分なだけ、他の点では世の動きに遅れていない患者もいる。〔・・・〕今では毎回、私は間を置いて、大きく呼吸してから、真正面から患者の眼を見つめ、状況の否定しがたい真実を彼らに明かす。ドナルド・トランプがアメリカの大統領だ、と。私は、反応を待ち、目をそらさないようにする。

たいていの場合、それはすんなりとはいかない。

一人の高齢の女性は、びっくりさせるようなうめき声を上げた。それは、彼女の猫が死んだ、と誰かが伝えたときに聞きそうな感じの音であった。他の一人は、私の言葉を聞くとまばたきを2回して、「本当ですか?」と疑い、「先生、頼むから、私を不安にさせないで下さい」と言った。ある患者は私がいたずらを企んでいると非難してきた。あいにくフェイク・ニュースを伝えたと私が告訴されたことは今のところないのだが。


記憶喪失というのは、神秘に包まれた現象であり、患者が他の点では認知的に無傷である場合にはとりわけそうだ。新たに飛び込んできた情報は、しばしば、微塵の自意識もない、表裏のないかたちで反応され経験される。


同じような率直さはトランプ投票者たちのあいだにも見られるようだ。私は誰かが「素晴らしい! ヒラリーをとっくに牢屋にぶち込んだか?」と言ってくるのを待ち構えていたのだが、それは単純に言って起こったことがない。代わりに私は、「あらま。彼に投票したけど、本当は勝たなかったんでしょ? そりゃ、どえらいことだよ」といった、より悟ったような反応を耳にしてきた。政治的な立ち位置に関わりなく、私の患者たちの反応は、彼らがその真実をフィクションよりも奇怪で驚くべきものと感じることを示している。

 もちろん、トランプ支持の地理的・人口的分布(AERAの記事「地図が明らかにした米大統領選の矛盾」に詳しい)を考えると、ボストンの有名病院に勤める一人の医師の経験を一般化すべきではないが、記憶喪失という窓を通して見える現実の一側面として興味深い。

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