【ゲームの英語】『Oxenfree』:"Stuff just happens."

ワケが分かるとは限らない

 本日のフレーズ:

Alex: Maybe she was up to something, you ever think of that? I mean, she's wrapped up in this thing somehow.

Jonas: Maybe...but also, things don't have to make sense. Sometimes...stuff just happens...and that's the end of it.

Oxenfree, Night School Studio, 2016

 ヤングアダルト風のスーパーナチュラル・スリラー『Oxenfree』(オクスンフリー)から。主人公の女の子アレックスと、彼女の義理の兄弟(step-brother)ジョナスとの会話より。10代の男女5人がパーティーに訪れた島で、超常現象に遭遇し、島に秘められた謎を解きながら無事帰還する方法を探る、アドベンチャー・ゲームだ。

 アレックスの最初のセリフに登場する“up to ~”は、色々な使われ方をするが、ここでは「~をしようとして」「たくらんで」の意。主人公たち5人が見舞われている超常現象について何か手がかりとなりそうなことを見つけたアレックスが“Maybe...”と憶測を述べたことに対して、ジョナスが同じ“Maybe...”を繰り返すかたちで「でもそれは憶測だろう」というニュアンスで返している一コマ。

 “but also”以下を順に見ていくと、まず、“make sense”(意味をなす)は、“It doesn't make any sense.”(「さっぱりワケが分からない」)といった使われ方でおなじみ。このゲームのなかでも他に、“Oh. That makes more sense.”といったセリフが登場する。そちらは、「何よ、ソレ?」と喋った直後に、同じキャラクターが「なんだ、そういうことね」と納得する場面。話を戻すと、ここでは、“must”の類語“have to”(~しなければならない)に続いており、文章全体が否定文となっているので、「thingsは、意味をなさなければならない・ワケが分かるようでなければならない(have to make sense)、なんてことはない」というかたちで用いられている。

 次の箇所、字幕では“stuff just happen”と“happens”の‘-s’が抜けているが、stuffは不可算名詞なので、動詞には三人称単数の‘-s’が必要で、音声でも‘-s’が入っている(私のプレイ時の話で、単純な誤植なので、すでに直されているかも)。“Stuff happens.”は「そんなこともあるさ」といった意味の慣用表現。ある女性がどういうわけかあることに“wrapped up in”していたのだから、何か理由や目的があったに違いない、と「彼女」(she)を主語として述べるアレックスに対して、ジョナスが“things”や“stuff”を主語にして、たまたまってこともあり得る、と一般論で応じているかっこう。

 “wrap”(ラップ)は、「ラッピング」(wrapping)としてすでに日本語化しているが、「包む」という意味の動詞で、“be wrapped (up) in”で、「すっかり包まれている」→「夢中になっている」という意味で用いられる。・・・というのを、いま初めて英和辞典で読んだけれど、辞書的に知らずとも、イメージすれば分かる表現。

 最後の“that's the end of it.”もよく見かける表現。無難な訳文を探すなら、「それでおしまい」といったところか。

 私的訳文:

アレックス:ひょっとしたら、彼女は何かしようとしていたんじゃないかしら。そう思わない? ほら、彼女はどういうわけかこのことに没頭していたわけでしょ。

ジョナス:ひょっとしたら、ね・・・でも、物事にいつでも意味があるとは限らないよ。そんなこともあって・・・それだけってこともある。

会話はぎこちないもの

 アレックスとジョナスは親の再婚で出会ったばかり。アレックスはジョナスを誘い、親友のレンととともに、浜辺でのパーティーのために曰くつきの島を訪れるが、パーティーに現れたのは、その3人を合わせてたったの5人で、残りの2人は、事情があってアレックスに冷たい女の子クラリッサとその親友のノナ。レンはノナに惚れていて、みんながそのことを知っている。誰にとっても新顔のジョナスを交え、冒頭からぎこちのない会話が続く。

 アメリカのゲームサイトのスタッフが、本作について「『ライフ・イズ・ストレンジ』が失敗していたティーンの会話の息遣いを見事につかんでいる」と称えているのを目にしたことがある。私自身は、『Life Is Strange』(Square Enix, 2015)も相当好きというか、むしろ「好き」の度合いでは『Life Is Strange』のほうに迷わず軍配を上げてしまうのだが、「なるほど」とも思わされる指摘だ。英語のネイティヴ・スピーカーからすると、『Life Is Strange』のティーンの会話はドラマっぽい・映画っぽい喋りなのだろう。

 この生っぽいぎこちない会話を強調するかのように、『Oxenfree』は、特徴的な会話メカニクスを採用している。他のキャラクターたちのセリフに合わせて、プレイヤーの操作するキャラクターであるアレックスの頭上に吹き出し式で選択肢が表示されるが、多くの場合、吹き出しは、他のキャラクターたちのセリフの途中から表示され、他のキャラクターたちが喋り終わるの待っていると、徐々に薄れて消えていく。あるいは逆に、選択したタイミング次第では、他のキャラクターが何かを喋ろうとしていたのを中断させてアレックスが喋るかっこうとなる。

 会話の選択肢の時間制限そのものはなんら珍しい仕組みではないが、ここでプレイヤーを悩ませるのは選択肢そのものであるよりも、喋るタイミングなのだ。もちろん、そのタイミングに正解のようなものがあるわけではない。誰かのセリフを遮ってしまうたびに、プレイヤーとしては、「聞き逃した」という気分にさせられるけれど、一見とりとめのない会話に参加する、というゲームの趣旨からすれば、RPGのように聞き出せることを聞き出して選択を下す、といったことがプレイヤーに期待されているわけではないのである。ここで取り上げたやりとりも、選択肢として現われるセリフとそれに対する応答で、すべてのプレイヤーが必ず聴くセリフではない。

 エンディングでは、個々のキャラクターたちについて自分と同じ結末を迎えたのが全体の何%のプレイヤーにあたるかが表示される。「あなたと70%のプレイヤーは・・・しました」といった具合に。この点は『Life Is Strange』と同様だ。ただ、どこでその決定的な選択が下されていたのか、『Oxenfree』の場合、因果関係はあまり明瞭でない。「ここでこの選択肢を選べば」みたいな「ゲームっぽさ」が薄いわけだ(逆に、『Life Is Strange』では、そういうメタ的な視線をタイムトラベルとバタフライ効果として物語自体に組み込んでいる)。プレイヤー目線の代わりに際立ってくるのは、「いまのはマズかったかな?」「あいつ、何言いかけてたんだろう?」といった、よりキャラクター目線に立った、ぎくしゃくとした感覚であり、その感覚を継続させたまま繰り返されるやりとりを通して物語は進行していく。

 登場人物たちがワーワーとひっきりなしに喋るゲームなので、言語の敷居は高めとなるが、それだけに魅力のある会話が楽しめる一作。Telltale作品の常連声優エリン・イヴェット(Erin Yvette)がアレックスを、『Borderlands 2』(2012)のエンジェル役で知られるブリタニ・ジョンソン(Britanni Johnson)がノナを演じている。


OXENFREE: LAUNCH TRAILER

余談:タイトルの意味

 タイトルの“Oxenfree”は、“Olly olly oxen free”というかくれんぼ遊び(hide and seek)のなかで使われるフレーズに由来しているという。

 公式サイトの説明文より:

尋ねる相手によって答えが異なりますが・・・一説によると、それは“alle alle auch sind frei”というドイツ語のフレーズから始まったものだとされ、大雑把に訳すと〔訳注:ドイツ語として文法的におかしいので正確には訳せない〕「みんな、みんな自由だ」となります。もう一方の説では、もとは“all ye all ye outs in free”というものであったとされ、こちらは「出て来ても大丈夫だよ」という意味になります。私たちは、かくれんぼの経験からその言葉を学びました。
 なお、“Olly olly oxen free”は、アマンダ・パルマー(Amanda Palmer & The Grand Theft Orchestra)の曲名にも用いられている(2012年のアルバム『Theatre Is Evil』より)。


Amanda Palmer & The Grand Theft Orchestra - Olly Olly Oxen Free (Lyric Video)

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