【海外記事紹介】「弱くて無能な指導者は強い指導者のように振る舞う」(Tom Pepinsky)

 前回、Google技術者ジョナタン・ザンガー氏によるMedium投稿「クーデターのための観測気球?」を紹介したが、今度は、それに対する異論として書かれた短い文章を紹介する。コーネル大学準教授の政治学者トム・ピピンスキー(Tom Pepinsky)氏によるブログ記事「弱くて無能な指導者は強い指導者のように振る舞う」("Weak and Incompetent Leaders act like Strong Leaders", 2017/01/30)である。やはり「クーデターのための観測気球?」とその反響とに批判的なワシントン・ポストの記事(Abby Ohlheiser, "The cult of the paranoid Medium post", Washington Post, 2017/02/01)での紹介から存在を知った。

 ただ、ワシントン・ポストの記事が、タイトルからしてザンガー氏の文章を「パラノイア的なMediumへの投稿」と名指しているように、断罪調で、また、Mediumという媒体への「素人」の投稿に対して、大手紙という媒体上で「専門家」の権威を振りかざしている感じがちょっと鼻につくのに対して、記事に引用されたピピンスキー氏自身による投稿は、「同じ観察から真逆の解釈が成り立ち、むしろそちらのほうが蓋然性が高いのでは?」という、より謙虚なものだ。

強さのあらわれ? 弱さのあらわれ?

 要点となる箇所を抜き書きしよう(話の前提として、ザンガー氏の論旨は前回の紹介記事で読んで頂きたい)。

権威主義の政治について研究するなかで私が学んだ多くのことのうちの一つは、部外者の目から見ると、弱い指導者はしばしば強い指導者のように振る舞い、強い指導者はしばしば無頓着であるかのように振る舞う、ということである。
問題となるのは、対極的な議論の「観察上の等価性」(observational equivalence)と社会科学者が呼んでいるものである。あることがなぜ起きているのかについて私たちは二つの仮説を持っているが、どちらが観察されているデータに基づく「正しい」理論かを私たちが言い当てることはできないのである。私たちは、トランプの行政府内部で何が起きているのかについてほんのわずかな証拠しか持ち合わせていない。我々が観察しているのは、大統領令、人事決定、人員配置、といったそのアウトプットなのである。
トランプ大統領は、権力を強化して、アメリカの外交政策の形成における通常の組織のプレイヤーを締め出すためにスティーヴ・バノン〔首席戦略官兼大統領上級顧問〕をNSC(国家安全保障会議)に引き入れたのかもしれない。あるいは、彼は、彼が信頼できると信じる人物を必要とするほどに孤立しており、外交組織の誰もが足を引っ張ってしらばくれているため、バノンをNSCに引き入れたのかもしれない。前者は強さのあらわれである。後者は弱さのあらわれである。どちらとも同じように観察可能なほのめかしを持っているのだ。
「すべての意味が分かる仮説が立ったぞ!」という、物議をかもす見解(hot takes)は、曲線あてはめの質的等価物なのだ(the qualitative equivalent of curve-fitting)。これらの大胆な見解を無視してはいけない、そのうち一つは、結局のところ、おそらくは正しいのである。だが、何が欠けているのかを理解しなければいけない。私の見方では、過去10日間から引き出すべき結論は、国政に対してこの大統領がなんとわずかな権力しか掌握していないか、ということに尽きるのである。

 すなわち、入国禁止の大統領令をはじめとする一連の目まぐるしい出来事から、ザンガー氏が「一握りの中枢サークルによる権力の掌握へ向けた動き」を読み取ったのに対して、ピピンスキー氏は「一握りの身内的存在に頼らざるを得ないほど孤立しているトランプ大統領の姿」を読み取っているのである。

「何が起きているのか」を問わざるを得ない状況

 ドナルド・トランプのことを「強い指導者」云々と語る言説に彼の当選前からつねづね違和感を抱いてきた身としては、うなづかされる部分が多い指摘である。ただ、肝心の異論について言えば、陳腐な言い回しではあるが、「コインの両面ではないか?」という印象も否めない。というのも、私などからすると、《セコい泥棒政治家に過ぎないトランプが不釣り合いな権力の座についてしまったその脆弱さゆえに、きちんとした説明責任を負わない一握りのグループが暗躍する余地が生まれている》というのが、ザンガー氏の解釈から連想されたイメージだったのである。

 このあたりについては、Alternetの記事「トランプの混沌に満ちた一週がスティーヴ・バノンのより大きなプランにとって好都合であるかもしれない理由」(Heather Digby Parton, "Why Trump's Week of Chaos May Suit Steve Bannon's Bigger Plans", Alternet, 2017/01/30)が参考になるかもしれない。思い切り平たく言えば、トランプが無定見・無能な存在として混乱を引き起こすことそれ自体が、極右の陰謀屋バノンの、《既存の社会・政治秩序の破壊》という目標に合致している、との指摘である。

 確かにピピンスキー氏が指摘するように、政権内部の動きについて私たちはアウトプットでしか知り得ず、こうした一切は最終的に憶測の域を出なくなってしまうのだが、どのような解釈を妥当なものと見なそうと、異様な事態であることには変わりない、というところが、この政権の一番怖いところかもしれない。それが「何が起きているのか」という仮説に注目が集まるそもそもの理由でもあるだろう。


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