【ゲームの英語】『Watch Dogs 2』:“Going dark is no longer an option.”

あなたとあなたの生み出すデータ

 本日のフレーズ:

You are now less valuable than the data you produce. This is the new reality. Going dark is no longer an option.

Watch Dogs 2, Ubisoft, 2016)

 ハッカーを主人公とするオープンワールド・ゲーム・シリーズの第2作『Watch Dogs 2』(ウォッチドッグス2)より。

 “go dark”というのは「信号が消える」「連絡が途絶える」といった意味で用いられるが、常時接続の今日では、仕事に集中したり休暇を楽しんだりするために「メールやソーシャル・メディアを〔一時的に〕絶つ」行為を指しても使われる。コミュニケーション・ネットワーク(≒監視網)から姿を消す、ということである。あるいは、もう少し特殊な用語としてFBIは、コミュニケーション・サービスとテクノロジーの変化が警察機関による監視や証拠集めを困難にしていることを「ゴーイング・ダーク問題」と呼ぶ(FBI ※参考:Wired 日本版)。

 “no longer”は「もはや…ではない」という否定表現。“no longer an option”(もはや選択肢ではない)は、それ自体慣用表現といえる。

 私的訳文:

今や、あなたはあなたが生み出すデータよりも価値がない。これが、新しい現実。姿を消すという選択肢はもはや存在しない。

「サイバーパンクっぽい戯言」な現実

 もう少し長めに引用してみよう。

Big Brother no longer works alone. Thousands of little brothers monitor and aggregate your every move, building a complete digital profile of YOU, to be bought, sold or stolen in an instant. Toys study your children, reporting their playing habits back to marketers. Appliances, consoles and home security systems give corporations a window into your private life. Control of your vehicle and mobile device can now be breached remotely by anyone, at any time. You may think that you are immune or underestimate the risks, but your digital shadow is already compromised. Insurance companies use algorithms to monitor your life habits and limit or deny coverage. Health providers determine if your cancer is worth treating. Search results and news feeds are skewed to bias mood and influence your vote, engineering social uprising on a massive scale. You are now less valuable than the data you produce. This is the new reality. Going dark is no longer an option.

「ビッグ・ブラザー」はもはや単独では機能しない。何千何万ものリトル・ブラザーがあなたのあらゆる動きを監視・集約して「あなた」の完璧なデジタル・プロファイルを作り、瞬時に買われ、売られ、盗まれるものにしている。 オモチャはあなたの子どもたちを観察し、子どもたちの遊びの習性をマーケティング立案者たちに報告している。電気器具、制御端末、家庭用セキュリティ・システムは、あなたの私生活へののぞき窓を企業に与えている。あなたの乗り物やモバイル・デバイスの操作は、いつ、誰によっても遠隔侵入され得る。あなたは自分は影響を受けないと思い、リスクを過小評価するかもしれない。だが、あなたのデジタル・シャドウは、すでに誰かの手に渡っている。保険会社はアルゴリズムを使ってあなたの生活習慣を監視し、適用を制限し、あるいは拒否する。医療機関は、あなたのガンが治療に値するかどうかを決定する。検索結果とニュース・フィードは、バイアスを植えつけてあなたの投票行為に影響すべく歪められており、大規模な社会的動乱を画策している。今や、あなたはあなたが生み出すデータよりも価値がない。これが、新しい現実。姿を消すという選択肢はもはや存在しない。

 なんというか、「サイバーパンクっぽい戯言」である。だが、問題は、私たちが実際、「サイバーパンクっぽい戯言」な現実を生きている、ということだ。

 この3月、イギリスのビッグ・データ会社「ケンブリッジ・アナリティカ」の内部告発がニュースとなった。のちにドナルド・トランプの側近とドナーになるスティーヴ・バノンとロバート・マーサーに売り込んで立ち上げられたこの企業が、約5000万人もの Facebook ユーザーのデータを不正に入手し、2016年の米大統領選でトランプ陣営の選挙戦に活用していた実態が、これに関わったデータ・サイエンティストの口から明かされたのである。

The Cambridge Analytica exposé: everything you need to know | The Guardian

 膨大な個人情報の収集を可能にしたのは、アプリを利用している本人だけでなく、その友人の情報までを収集可能にするというアプリの存在だが、話の肝は、これがハッキングなどでなく、Facebook に許可を得てデータを収集していたケンブリッジ大学教授から横流しされたものである、というところ。このデータから、誰にどこでどのくらいの頻度でどのようなメッセージを送ることで意見を左右できるか、というプロパガンダのための心理的プロファイルを編み出した、というのが、内部告発者の語るストーリーだが、根っこにあるのは、《いくらでも起きていそうな杜撰な流出》というショボい話でもある。

 そんな Facebook に個人情報を自ら提供してしまう個々人がいて、それを横流しする最低な研究者がいて、それを文化戦争・政治闘争の武器とみなすバノンとマーサーがいて、もしかするといくらかはその結果、トランプ大統領がいる、というのだから、私たちは思いっきりウンコなバージョンのサイバーパンクを生きているのだろう。

「エイデン・ピアースはクソ野郎だ!」(いや、本当に)

 ウンコといえば、『Watch Dogs』の一作目は、主人公が周りに被害をもたらすだけの最低なクソ野郎であること、そしてゲームがなぜかそれをクールでストイックなヒーローだと勘違いしていること、で悪名高い。

 Errant Signal:

これだけははっきりさせておこう。このゲームは、登場する数々のトピックの何一つについて何ら意味のある批評や洞察を持ち合わせていない。監視国家についてでも、情報文化についてでも、現代世界におけるハッカーの存在についてでも、Facebook のようなツールを通した自発的なプライバシーの喪失についてでも、ビッグ・データと予測的アルゴリズムについてでもないのである。〔……〕このゲームは、いっぱいの「いや、そうでもない」(not really)に留まって終わる。「バットマンだ!」(いや、そうでもない)「サイバーパンクだ!」(いや、そうでもない)「プライバシーと監視についての批評だ!」(いや、そうでもない)「新しいゲームだ!」(いや、そうでもない) ただ、唯一例外がある。「エイデン・ピアースはクソ野郎だ!」(いや、本当に)

 二作目『Watch Dogs 2』には明らかに改善の努力が見られる。オープニングから、主人公マーカスの存在がそれを印象付けている。

 Jimquisition:

マーカスは、死んだ家族の復讐を誓う Ubisoft にありきたりの主人公ではない。〔……〕彼はポップ・カルチャー・オタクで、気取ったお調子者で、理想主義的なハクティヴィストである。要するに、まさに『Watch Dogs』が最初から必要としていたタイプの主人公なのだ。

 サンフランシスコの街が色鮮やかな舞台を用意し、マーカスとハッカー集団「DedSec」の仲間たちが、ストーリーをシリアスに受け止め過ぎないユーモラスなタッチを作品に与える一方で、肌の色を以て人口グループを潜在的犯罪者として扱う、いわゆるレイシャル・プロファイリング(racial profiling)の存在が語られるなど、この二作目からは、「監視社会」という雰囲気だけの御託を超えて、権力と抵抗について何かしらを語ろうとしているのがうかがえる。

 ただ、『Watch Dogs 2』は、根本において『Grand Theft Auto』スタイルのオープン・ワールド・ゲームでもある。あなたは、開始早々に車かバイクを盗み、遅かれ早かれ通行人を轢き殺し、ゲーム・システムが勧めるままに人々の端末にハッキングし、通行人の金を盗み、警備員たちを陥れ、交通事故を誘発し、そしてお好みの銃で銃撃戦を演じることになる。カットシーンのマーカスはお調子者の好青年かもしれないが、あなたのプレイするマーカスは、お調子者ではすまない、力の濫用者となるのである。

Watch Dogs 2 – Launch Trailer [US] | UbisoftUS

(2018/03/25最終更新 ※誤字修正)

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