【ゲームレビュー】『NORTH』

作品名:NORTH
開発元:Outlands
パブリッシャー:Sometimes You
リリース:2016年
PC(Steamにて購入

“この土地の人たちは、『南』から来る人間はみんなテロリストだとでも思い込んでいるらしい。”

 どことなくサイバーパンクっぽいヴィジュアルとお手頃な価格(定価198円)とに惹かれて、説明も読まずに発売時に買っていたのだが、ようやくプレイしてみて、よい意味で驚かされた。「難民」をテーマにした3D一人称視点の短編ゲームである。

 物語は、"Dear Sister"で始まり"Love, Your Brother"で結ばれる一連の手紙を通して語られる。「北」へ逃れてきた主人公が、「南」に残る姉か妹(不明)に対して送る手紙、である。

 「北」の都市に到着したことを知らせる第一の手紙を読むなり、プレイヤーは、薄暗い都市の一角に放り込まれ、そこからゲームプレイは、探索と手紙の投函、という、一瞬戸惑いを誘う、しかし、すぐに直感的に理解可能なサイクルによって構成されていく。すなわち、プレイヤーが、ホーム、仕事場、教会、警察署、移民局といったそれぞれの場所に足を運んだり、そこで用意されているインタラクションをこなすと、その都度、投函可能な手紙の存在を通知するアイコンが画面下に現れ、その後、街頭に置かれたポストに向かうと、投函と同時にその内容を読むことができ、それによって、次に取るべき行動のヒントや今さっき行ったばかりの行動の解釈が得られるのである(インベントリーやジャーナルはない)。

 そこで展開されていくのは、共同住居、劣悪な環境での労働、監視カメラ、書類申請、といった難民を取り巻く光景だが、シュルレアリスト的なヴィジュアルと簡潔な手紙文との反復が与える独特なリズムが、これをセンセーショナルなものにも説明的なものにもしていないところが秀逸。物語とその舞台となる都市は、カフカ的、『未来世紀ブラジル』的、 あるいは、立ちそびえる構造物を見上げるその感覚において弐瓶勉っぽくさえある、といった面持ちを見せ、プレイヤーは、思わずクスッと笑ってしまうような瞬間にも遭遇しつつ、淡々と理不尽な世界に適応しながら、不穏な結末の予感へと誘われていく。

 所要時間は、40-50分ほど。現時点では日本語非対応。英語は聴き取り不要で、文章も平易だが、頻繁に挿入される手紙が作品の鍵となる要素なので、難しそうだったらすぐ読み飛ばしてしまう、といった方には残念ながらおすすめできない。

【追記1】(2016/08/24)

 自分が購入した Steam ストアでしか確認していなかったが、『NORTH』は、インディー・ゲーム・サイト itch.io では無料配布されている。最低金額設定なしの“Name your own price”(あなたが値段をつけて)である。3ドル以上支払うと、8曲のサウンドトラックが購入でき、購入額の半分は難民関連の寄付にあてられる、という。寄付先の詳細を自分で確かめていないので、無責任なことしか言えないが、100円ほどの追加と思えば、クリエイター支援の観点からいっても、Steam で買うより断然よさそう。

【追記2】(2016/08/24)

 触れるべきか迷って言及するのを忘れていたが、途中、激しく光の点滅が繰り返される場面があるので、健康上の危険を感じる方は要注意。