ドナルド・トランプのお笑いホワイトハウス、そのヤバすぎるメルトダウン

 アメリカのドナルド・トランプ大統領について、行きがかり的に、ちょこちょこと海外記事の紹介などを書いてきたが、この数日のあいだの動向は目まぐるしくて、もはや「メルトダウン」と評してよいのではないか、と思える。マジメなニュースはCNN日本語版にでも任せるとして、以下、やや不真面目な視点から、日本では報じられなそうな米ホワイトハウス関連報道をピックアップしておこう。

FBI長官解任の裏側

 別の記事で簡単に扱った9日のFBI長官解任をめぐる波紋に関して、CNN日本語版が「そこまでは考えが及ばなかったとみられる」と報じていた点について、もう少し詳細な裏取りをしている記事(Politico)を後で見つけたので、捕捉として抜粋しておく。

彼〔トランプ〕はロシア疑惑捜査に激怒し、ロシアをめぐり膨れ上がるストーリーをコントロールできないことに苛立っていた、と二人のアドバイザーが語った。彼は繰り返し側近たちに向かって、なぜロシア疑惑捜査が消えてなくならないのかと問い、彼を弁護するよう要求した。アドバイザーの一人によれば、彼は疑惑究明を報じるテレビのクリップに向かって時々叫び声をあげていた、という。


トランプは、午後5時頃、上院議員たちに〔解任の〕支持を求めるため複数の電話をかけた。政権内の協議について明かした人物の語るところでは、ホワイトハウス高官たちは、共和党も民主党も共にFBI長官とのあいだに問題を抱えているのだから、これは「ウィン-ウィン」になるだろうと信じ込んでいたのだという。

ところが、上院における野党のリーダー、チャック・シューマー(ニューヨーク州選出の民主党議員)がトランプに対して、大きな過ちを犯している、と告げ、トランプは「あっけにとられた」ようだった、とその電話について知る人物は語った。

カーテンに擬態しようとしたFBI長官

 そのジェームズ・コミーのFBI長官解任について、下らないけれど、いまのホワイトハウスを象徴するニュースをもう一つ。

 コミー氏解任決断の裏にトランプ-ロシア疑惑捜査を振り払う狙いがあったことはトランプ大統領本人がNBCのインタビューに対してあっさり認めてしまったのだが(The Guardian)、「ヒラリー・クリントン候補の私用メール問題に関する捜査の不手際」という公式の説明とは裏腹に、就任当初のトランプ大統領が、コミー氏のことを自身の選挙戦の「功労者」と考えていたことは、次の1月の映像を見れば明らかである。投げキスをして招きハグする、という熱烈ぶりであった。


Trump Greets FBI Director James Comey at White House | ABC News

 今月18日になって、このホワイトハウスでの一幕について、風変りなニュースが舞い込んできた。コミー氏が友人に漏らしたところによると、コミー氏は、この時、トランプ大統領に見つからないことを祈って彼のスーツの色と近い青色のカーテンの前に立っていたのだという。とはいえ、2メートルを超える長身(6フィート8インチ≒2メートル3センチ)のコミー氏が目立たなくなるはずもなく、あっさり声をかけられてしまったので、コミー氏は握手だけで済ませようと手を伸ばしたが、トランプ大統領からハグまでされてしまった、というのが上の場面だそうだ(The Hill)。この証言は匿名ではない。

トランプに「お子様仕様」で対処するNATO

 そんな騒動の最中だが、今月25日のNATO(北大西洋条約機構)の会合にトランプ大統領が初出席することが決まっている。その会合に関して、NATO及び米政府関係の複数の情報筋の伝えるところとして、NATO側がトランプ対策として各国首脳に対し、討議中は喋る時間を2~4分に収めるよう要請している、と報じられた(Foreign Policy)。

「トランプを相手にするために彼らがどんな準備をしているかと思うと、ちょっとバカバカしくなる」と、会合の準備について詳細に明かした一人の情報源が語った。「まるで子どもを相手にする準備をしているみたいなんだ。つまり、短い時間しか集中力が続かなくて気分が変わりやすくて、NATOについて何の知識もなく、突っ込んだ政治的論点に何の関心もないような誰か、というわけさ。彼らはビビっているよ(freaking out)」と、匿名を条件にその情報源は語った。

 トランプ大統領は、選挙戦中にNATOを「時代遅れ」(obsolete)と酷評したこと、そして当選後になって「もはや時代遅れではない」(no longer obsolete)と180度態度を変えたことでも知られているが(CNN)、そんなコロコロ変わる外交姿勢などよりも、トランプ大統領がそもそも議論についてこれるか、という問題に関係者は神経を尖らせているようだ。

困った時のアルツハイマー説?

 主流メディアから外れたところで「おや?」と目を引いたのは、トランプ陣営のコンサルタントを一時期務めていたロジャー・ストーン(Roger Stone)が、トランプを支持する陰謀論者アレックス・ジョーンズ(Alex Jones)のネット番組上で、「トランプ大統領はアルツハイマーではない」と繰り返し言明した、というC級ニュース(Media Matters for America)。ロジャー・ストーンは、トランプ政権誕生を支えた裏工作の専門家とも目される人物で、彼を取材したドキュメンタリー映画『困った時のロジャー・ストーン』(Get Me Roger Stone, 2017)がネットフリックスで今月公開されたばかりである。

 この発言を「奇妙」と指摘しているのが、ストーンとジョーンズに乱入されて生中継番組を荒らされた経験のある(『困った時のロジャー・ストーン』にもこの場面が出てくる)リベラル派のネットメディアThe Young Turksのホスト。彼は、「『アルツハイマー』なんていう話はストーンの発言以前には耳にしたことがなかった」「彼の否定発言をきっかけに説が広まった」と指摘した上で、トランプのための法的な弁護を用意しているのではないか、という憶測を述べている(英語動画)。すなわち、「アルツハイマーだなんて誰が言い出した!?」と自分から騒いでおいて、ロシア疑惑でいざトランプ氏個人が犯罪に問われることになった場合のための「心神喪失状態だったので責任を問えない」という逃げ道を手配しているのではないか、というのである。

 以上はプチ陰謀論の域を出ないものとして聞き流すべき話だが、ただ、不正の証拠が積みあがるにつれ、トランプ大統領をめぐる一連の疑惑が「犯罪」の領域の問題(The New York Times)、弾劾後の訴追の可能性(Newsweek)として議論されるようになっているのは確実だ。与党・共和党の議会での賛成(下院過半数、上院3分の2)を必要とする弾劾があり得るかは相変わらず不透明だが、一方で、トランプ氏が政権の存続を見捨てて私人としての保身に走る可能性がすでに憶測され始めているのである。あるいは、歴史家ティモシー・スナイダーが危惧するように、トランプ政権が「非常事態」という切り札に頼ることになるのか、メルトダウンの行方が懸念される。

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