「もしジェシカ・パリッシュがあなたの娘だったら」
本日のフレーズ:
Reporter: How long will STAG be occupying Steelport?
Cyrus: There is no "occupation". We have the full support of Mayor Reynolds.
Jane: How will STAG impact our daily lives?
Cyrus: When we win the war on urban terror, you and your families will be safe again.
Jane: Sir, that's not what I asked.
Cyrus: Let me tell you about Jessica Parish, a girl from Stilwater who ran away from home to be with her tough-guy boyfriend. Jessica thought her life was pretty sweet, until a gang banger kidnapped her, threw her in the trunk of a car, and laughed as her boyfriend crushed her in a monster truck rally. If Jessica Parish was your daughter...how far would you want me to go?
(Saints Row: The Third, Deep Silver, 2011)
オープンワールド・アクション・シリーズの三作目『Saints Row: The Third』(セインツ・ロウ:ザ・サード、2011年)より。
主人公が率いるストリート・ギャング「サード・ストリート・セインツ」(3rd Street Saints)は、多国籍犯罪組織「シンジケート」(The Syndicate)との抗争に突入。ギャング間の抗争が激化する中、連邦政府よりギャング鎮圧の命を受けた特殊部隊「STAG」(Special Tactical Anti-Gang Unit 特別戦術対ギャング部隊)が派遣される。上はミッション“Gang Bang”から、STAGの司令官サイラス・テンプル(Cyrus Temple)と、シリーズ恒例のニュース・レポーター、ジェーン・ヴォルデラマ(Jane Valderamma)との記者会見場でのやりとり。
終わりにあるサイラスのセリフを見ていくと、“let me tell you about...”は、文法的には、使役動詞(let, make, have, get)+目的語+原型不定詞、と解説されるもので、直訳すれば「~について話させて下さい」となる。Jessica Parish という固有名詞は、“a girl from Stilwater”(スティルウォーター出身の少女)と言い換えられ、"who..."と関係代名詞を用いた説明が加えられている。後から説明が加わっていく英語らしい一文だが、“a girl from Stilwater”/“who ran away from home”(家出をした)/“to be with her tough-guy boyfriend”(タフガイのボーイフレンドと一緒になるために)と区切ってみると、比較的シンプル。
続く一文には、Jessica、a gang banger、her boyfriend の三つの主語が登場し、時間を表す接続詞によってそれぞれの行為が関係付けられている。until によって、“Jessica”を主語とするパートと、“a gang banger”を主語とするパートが時間的前後関係に置かれ、時間の同時性を表す接続詞 as(「~する間」)によって、“her boyfriend”を主語とするパートが後者に組み込まれているのである。
最後の一文は、仮定法を用いた疑問文。後半だけ直訳すると「あなたは私にどこまで行くことを求めるだろうか」という、一見「あなた」(you)に対する問いかけの形をとるが、ジェシカの親ではないあなたに向かって「もしもジェシカ・パリッシュがあなたの娘だったら」と尋ねているので、「あなた」が誠実に答えようとすれば、答えようがない(=沈黙する)、というのが唯一可能な反応となる。
挿話によって誘導した上で、質問に対して逆に仮定の質問で返す、これは英語文法というより修辞的効果を読み解くべき文章だ。司令官は、一人の少女の挿話を通じて何を伝えたかったのか。「黙れ」ということである。
私的訳文:
レポーター:STAGはどのくらいの期間、スティールポートを占領することになるのでしょうか?
サイラス:「占領」などというものは行われていない。我々は、レイノルズ市長の全面協力を得ている。
ジェーン:STAGは、私たちの日常生活にどのような影響を及ぼすでしょうか?
サイラス:我々が市街テロとの戦いに勝利した暁には、あなたとあなたの家族が再び安全になるだろう。
ジェーン:閣下、私が質問したのはそういうことではありません。
サイラス:皆さんにジェシカ・パリッシュの話をしてあげよう。タフガイのボーイフレンドと一緒になるために実家を飛び出したスティルウォーター出身の少女だ。ジェシカは、彼女の人生をとても素敵なものだと思っていた。一人のチンピラが彼女を誘拐して、彼女を車のトランクに押し込み、彼女のボーイフレンドにモンスター・トラック・ラリーで轢き殺させてせせら笑うその時までは、ね。もしジェシカ・パリッシュがあなたの娘だったら・・・あなたは私にどこまでやることを求めるかね?
漫画的な戒厳令。
だが、戒厳令とは漫画的にしか想像できないものかもしれない
一作目を未プレイであることを断った上で言えば、『Saints Row』は、興味深い進化を遂げてきたシリーズだ。・・・と言うと、結果からのみ見た単純化で、実際には、三作目の開発途中まで作品のトーンをめぐって試行錯誤があったことが知られている。完成した作品からは想像もつかないが、三作目は当初、ギャングに潜入するFBI捜査官を主人公とするシリアスなトーンの作品として企画されていた、というのである(Polygon)。この開発裏話によると、『Grand Theft Auto』シリーズのクローンとして始まったシリーズのアイデンティティがはっきりと意識的に定められたのは三作目から、と言って間違いないようだ。すなわち、「やりすぎ」(Over the top)が開発チームの合言葉となることでトーンが定められたのである。
この「やりすぎ」のそれぞれの作品における成否の度合いはさておき、では、『Saints Row: The Third』『Saints Row 4』はいわゆる「バカゲー」なのだろうか? ・・・というのは、よくない問題の立て方で、確かにバカだしふざけているのだが、その「バカである」「ふざけている」という断定に「ひたすらくだらない」「シリアスな要素は一切ない」といった含みを与えるのは、正確なのだろうか?
ある批評は『Saints Row 4』を次のように評する(Errant Signal)。
『Grand Theft Auto』が自分のことを賢いと必死に思わせたがっている、比較してみると、頭の悪いゲームであるのに対し、『Saints Row 4』は、自分のことを頭が悪いと必死に思わせたがっている賢いゲームである。優れたポール・バーホーベン映画のようなものだ。気ままで一見くだらないようで、入念に見ると、あなたが考えるよりも多くのことが起こっているのである。
私の見るところ、前作にあたる『Saints Row: The Third』は、ここまでの域には達していない、というか、率直に言って、光る部分とため息が出る部分とが入り混じっている印象を与える。ただ、バランスが悪いなりに、かえって興味深い部分があるのも事実だ。
たとえば、STAG。レーザー銃武装のこのギャング鎮圧部隊を「漫画的」と評していいのか、難しいところ。
STAGは、作中では「準軍事組織」(paramilitary organization)と言及されており、警察でも軍隊でもない、ギャング対策専門の執行部隊であるらしい。“war on urban terror”(市街テロに対する戦争)というサイラスの発言は、「麻薬戦争」(War on Drugs)、「テロとの戦い」(War on Terror)という、アメリカの抱え込んだ二つの泥沼の「戦争」を想起させる。「戦争」というレトリックにおいて、法の執行(law enforcement)と軍事作戦(military action)のあいだの境界は薄められ、警察は軍事化し、対外軍事作戦は警察活動の延長として語られることになるのである。
他方、略称に目を向ければ、この組織が、おふざけとして提示されていることも分かる。“stag”は「雄鹿」を意味するが、「男だけの」「同伴女性なしの」といった俗語的な意味があり、ミッション名の一つに使われている“stag party”とは、結婚直前の男性のために男性の友人たちが開く男だけの会、のことを指す(STAGには女性兵士がいるが)。また、古いポルノ映画を指す“stag film”という言葉もあるそうで(Wikipedia英語)、カットシーンで、「STAGイニシアティヴの発動」を呼びかける上院議員の姿を報じたテレビ・ニュースを見た主人公と仲間キャラクターが、「STAGイニシアティヴって、何だ?」「みんなのための無料ポルノのことだったら、賛成だね」という会話を交わすのは、この語意に触れたものらしい(↓予告にも登場する)。
Saints Row: The Third - Launch Trailer (OFFICIAL)
『Saints Row』は決して「深い」ゲームではないし、むしろポップ・カルチャーのパロディ的引用をこれでもかと散りばめた、表層的な世界がそこにはある(そういえば、『Saints Row 4』の舞台は仮想現実だが)。だが、パロディ的引用を自らのスタイルとすることで、ポップ・カルチャーの中にあるそれなりに健全な批評性と、ポップ・カルチャーに対するそれなりに健全な批評性とを獲得していったのが、このシリーズの特徴といえよう。
0 件のコメント:
コメントを投稿
投稿されたコメントは管理人が承認するまで公開されません。