【海外記事紹介】「ロシアの隣国ウクライナは、アメリカの何年も前から『フェイク・ニュース』とハッキングに悩まされてきた」(Snopes)

 紹介するのは、アメリカのファクト・チェック・サイト、Snopes.com のニュース記事「ロシアの隣国ウクライナは、アメリカの何年も前から『フェイク・ニュース』とハッキングに悩まされてきた」(Bethania Palma, "Russia’s Neighbor Ukraine Besieged by ‘Fake News’ and Hacking Years Before United States", 2017/06/27)

 6月27日に欧米の政府機関や企業がランサムウェアを用いた大規模なサイバー攻撃に晒されたが、被害の中心はウクライナであり、そこから被害が広まった、と目されている(朝日新聞2017/06/29)。攻撃者の正体や動機は依然として不明であるが、直後からロシア政府機関の関与が疑われており、その疑いの背景には、ウクライナに対するさまざまな形でのサイバー戦争、というこれまでの経緯が関わっている。

「偽情報」とサイバー攻撃の現代史

 以下、記事より抜粋。

アメリカ人が「フェイク・ニュース」という語を2016年後半に使い始める数年前から、ウクライナの人々は dezinformatsiya というものを嫌というほど知るようになっていた。すなわち、「偽情報」(disinformation)と訳される古いロシア語のことである。

それが初めてアメリカの一般大衆の注意を惹くようになったのは、激しい争いの種となった2016年の大統領選へと向かいつつあった数ヵ月間においてであり、複数の情報機関が、ロシアが「積極策」(active measure)を用いて干渉していた事実を認めた。「積極策」とは、ソヴィエト時代に遡る、明確な意味を持つ用語であり、敵対者に対して内部から影響を及ぼすことを探る作戦行動のことである。


クレムリンによって広められる偽情報のファクト・チェックと暴露とに取り組むウェブサイト、StopFake.org の共同創設者、イェウヘン・フェドチェンコ(Yevhen Fedchenko)は、ロシアは、戦争の勃発に何年も先立ってウクライナ内で「積極策」を用いてきた、と語る。アメリカにおける選挙干渉について関心を払っているアメリカ人にとって、これは見覚えを感じるかもしれない。アメリカにおいても、偽情報が RT(旧称 Russia Today)や Sputnik News のようなクレムリンに出資されたメディアを母体として飛び出し、次いで、ボットと InfoWars や Zero Hedge のような疑わしいサイトとによって広められているのである〔訳注〕。すべては、社会的亀裂(social rifts)を深めるべく、社会的相違(social divisions)につけこみ、それを悪化させようというものだ。

ドンバスでの戦争の勃発の10年も前から、クレムリンは、RT や Sputnik(いずれもウクライナの人々に完全に利用可能であった)に類似した国営のメディアを、陰謀論を広め、ヘイトスピーチを助長し、国の東部と西部のあいだの総体的な亀裂と、ロシア語話者とウクライナ語話者の対立とを創り出すために活用してきた、とフェドチェンコは語る。フェドチェンコは、こうした論争の大部分は新たに造り上げられたものである、と言う。


ロシアとの表立った戦争の勃発以降、ウクライナ政府はロシアのテレビ局の多くを非合法化した。より最近、2017年には、ウクライナの大統領ペトロ・ポロシェンコは、偽情報拡散を防ぐ努力の一環として、広く使用されているロシア企業のソーシャル・ネットワーク VKontakte (VK) と Odnoklassnikiand 、サーチ・エンジンの Yandex の禁止にまで踏み切ることを宣言した。


2017年6月20日に、テクノロジー・ニュース・マガジン、Wired は、ジャーナリストのアンディ・グリーンバーグによる調査報告を公開した。ロシアによって実行されたと考えられている2015年と2016年のサイバー攻撃を詳しく述べたものだ。


2017年6月27日に、ウクライナを中心点としてランサムウェア攻撃が、ヨーロッパとアメリカのビジネスに支障をもたらした。〔・・・〕

電話インタビューで、グリーンバーグは、ウクライナに対するサイバー攻撃の目的は本質的に心理的なものである、と指摘し、地球規模でのロシアの活動はますます攻撃的で予測しがたいものとなっている、と付け加えた。

〔訳注〕InfoWars は、陰謀論者として悪名高いアレックス・ジョーンズ(Alex Jones)が主催するウェブ・サイト。2015年12月には当時大統領候補であったドナルド・トランプがジョーンズのネット番組にインタビュー出演した(関連記事「『困った時のロジャー・ストーン』×『部屋の中にいる象』」)。Zero Hedge は、「タイラー・ダーデン」(小説及びその映画化『ファイト・クラブ』のキャラクター名)の署名を共同で用いる匿名執筆者により運営されている金融ブログ。2016年に元執筆者の一人によって、「タイラー・ダーデン」の正体とサイトの内情とが暴露された(The Sydney Morning Herald の Bloomberg からの転載記事を参照)。

サイバー戦争の実験室

 以前別の記事を紹介したように、「フェイク・ニュース」「ポスト真実」なるものがあたかも全く新しい現象であるかのように語られる風潮には違和感を持つべきと私は考える(関連記事「ポスト真実という誤謬」)。ただ、そのことは、注意を払うべきような事態は進行していない、という意味ではない。

 記事の後半で言及されているのは、「いかにして一国がまるごとロシアのサイバー戦争の実験室となったか」("How An Entire Nation Became Russia's Test Lab for Cyberwar")と題された Wired の記事。少し古いが、ウクライナで繰り返し引き起こされたハッキングによる停電については、Wired 日本語版にも別の短い記事が載せられている。グリーンバーグは28日の記事で、27日に起きたランサムウェアの爆発的感染について、ウクライナを標的としたサイバー戦争の意図せぬ波及(spillover)である可能性を論じている("Petya Ransomware Epidemic May Be Spillover From Cyberwar", Wired, 2017/06/28)。ウクライナを標的にしたものかどうか、攻撃者の正体と動機は何か、といった点を断定するには程遠いが、高度な技術的手口の一方で、ランサムウェアでありながら肝心の身代金入手をめぐる部分はなおざりであり、ランサムウェアに偽装した攻撃で、通常の犯罪者による攻撃ではない、と目されているのである。

 この一連のウクライナにおけるフェイク・ニュースとハッキングのストーリーが一層不穏なのは、グリーンバーグが指摘するように、そこでの動きが次の動きのための「実験」の役割を果たしている、と目されるからである。そして現に、その不安を裏付けるような情報もすでに浮上している。6月6日、ニュース・サイトのThe Intercept が、独自に入手したアメリカ国家安全保障局(NSA)の内部資料を公開した。その資料では、ロシアが受注会社や地方当局者を標的にしてアメリカ大統領選の電子投票システムへのハッキングを行っていたことが報告されており、ロシアがハッキングを通じて大統領選結果に直接影響を及ぼそうとしていた可能性が示唆されている(参考:ロイター日本版2017/06/08ビデオニュース・ドットコム2017/06/10)。グリーンバーグは、前述の6月20日の記事で次のような指摘を紹介している。

その〔ウクライナという国への〕無関心を陰に、ロシアは技術的能力の限界のみを推し進めているのではない。そう語るのは、キングス・カレッジ・ロンドンの戦争学(War Studies)部教授、トーマス・リッド(Thomas Rid)である。ロシアは国際社会が何を許容するかの限界をもまた探っている、というのである。クレムリンは、ウクライナの選挙に干渉し、何ら実質的なしっぺ返しに直面しなかった。そして、ロシアは似た戦略をドイツ、フランス、そしてアメリカでも試みたのである。〔・・・〕「彼らは超えてはいけない一線を、罰を受けずに何をやってのけられるかを繰り返しテストしているのです」リッドは言う。「押してみて、押し返されるかどうかを確かめる。押し返されなければ、次のステップを試す」

 「ポスト真実はプレ・ファシズムである。」そう語る中東欧史家のティモシー・スナイダーは、トランプ政権誕生を念頭に書かれた2017年の著書『専制について』の中で(インタビュー記事を紹介した)、「ウクライナ人の目には、アメリカ人はサイバー戦争とフェイク・ニュースの脅威に喜劇的なほど鈍く反応しているように映った」と述べて、アメリカの読者に対して、ロシアやウクライナの人々の経験から学ぶことを薦めている(Timothy Snyder, On Tyranny: Twenty Lessons from the Twentieth Century, Tim Duggan Books, 2017, pp. 96-97)。

しばらくのあいだ西から東へと流れているように見えていた歴史は、今では東から西へと動いているように見える。ここで起こることは、あちらでまず起こるようなのである。

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