【ゲームレビュー】『Subsurface Circular』:シンプルに語られる、シンプルでない未来

作品名:Subsurface Circular
開発元:Bithell Games
販売元:Bithell Games
発表年:2017
Steam

舞台は環状運転の地下鉄車内

 『Thomas Was Alone』(2012年)、『Volume』(2015年)で知られるインディー・ゲーム・クリエイター、マイク・ビセル(Mike Bithell)の新作は、卓越したアート・スタイルの3Dヴィジュアルを融合させた、選択式のテキスト・アドベンチャー。

 ゲームの舞台は、「テック」(Tek)と呼ばれるロボットが人間に代わって多くの仕事をこなすようになった未来。プレイヤーが操作するのは、市の管理者(Management)のために働く刑事テック。操作すると言っても、このテックは、環状運転の路線を走る地下鉄の座席に終始腰かけており、ゲームの一切はこの走行中の車内で展開される。

 物語は、向かいの席に腰かけた一体のテックが、失踪した友人の捜索を非公式に依頼してくるところから始まる。このテックが語るには、友人だけでなく、毎週数体のテックが姿を消しているのだという。ここから、プレイヤーは、駅ごとに乗り降りしていくテックたちと会話を交わしながら、物語の真相に迫っていくことになる。

ロボットたちの視点から描かれる「ロボットの脅威」

 いわゆるロボット工学三原則、「アシモフの原則」(Ahimov's law)が早々に言及されるように、ゲームは、王道的な短編SF小説を思わせる探偵的ストーリーとして始まる。すなわち、一つの捜査依頼をきっかけとして、架空の未来社会に仮託されるかたちで、広く人間性や社会をめぐる現代的な問いが展開されていくのである。オートメーションによって雇用が代替されていく、という「ロボットの脅威」がはっきりと主題に据えられているが、同時に、テックたちのことを仕事を奪う「侵略者」(invader)として憎悪する人間たちの動向も語られ、移民排斥とのパラレルが描かれていることも明瞭である。

 テックたちは自身の職務について、テック同士の関係について、人間との関係についてさまざまに語っていく。プレイヤーは彼らに耳を傾けながら、ゲームが、画面に一度も登場することのない、種としての人類をめぐる物語でもあることを理解するだろう。取り上げられているのは目新しい題材ではないし、古典的なテーマを刷新するような展開があるわけではないが、ゲームならではの語り口を楽しませてくれる。実質的に一本道でありながら、物語にアクティヴに参加している気分を与える没入感は見事。

 とりわけ秀逸なのが、「ロボット同士の会話」という作品設定によって、会話パズル的なメカニズムが、物語への没入を妨げるものとならず、逆にむしろテックたちの思考プロセスやそこに関わる社会的な制度について理解を深めていく過程となっている点。顔に表情を一切持たず、座ったまま会話するロボットたちに感情を与えるのはテキストのみ。ビセルによると、特定の感情や、ジェンダー・年齢といった情報を持たせないために、あえてセリフに音声をつけなかった、とのことだが(Kotaku UK)、これは的確な選択であったといえよう。シンプルなインターフェイスを通して、淡々とテキストのみで語られていくことによって、プレイヤーは、彼らそれぞれの物語や、その背後にある世界に対して想像力を働かせることをうながされていく。

 また、そのように会話がメインのゲームである一方で、選択肢探しに過剰な労苦を求める場面はなく、一つの例外を除いて、本筋に関係のない内容に会話が延々と流れていく心配がない点も好感が持てる。

結論

 プレイヤーの想像をうながす限定された舞台設定・ゲームプレイが、現代的なテーマと織り上げられたストーリーテリングの秀作。

 プレイ時間は2時間半ほど。全体で7つのチャプターに分かれており、チャプターを選んでリプレイすることが可能。また、チャプターと関係なく、どこでも一時停止の感覚で中断・セーブ可能で、通して一回でプレイできる長さではあるが、短い時間に区切ってプレイ・リプレイしやすいところはありがたい。

 対応言語はいまのところ英語のみ。ひたすら読むゲームなので、英語は当然必須だが、セリフの表示速度は調整可能で、スクロールして読み返すことも可能なので、単語に自信がない程度であれば、辞書を引きながらでもプレイは可能だろう。進行そのものは基本的に一本道で、ゲームオーバーのようなものはない(はず)。


Subsurface Circular Trailer

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