図:5年単位で見た1870年から1980年のあいだの南部連合記念碑・記念像の建造数(Mother Jones)
ヴァージニア州シャーロッツビルでの白人至上主義者集会とそこで起きた殺傷事件をめぐり、白人至上主義者を名指しせず「多く陣営」(many sides)を非難して波紋を呼んだドナルド・トランプ米大統領。2日間の沈黙の末に「人種主義は悪」と言明したのも束の間、15日に記者団の質問に対し、「両方の側(both sides)に責任がある」と述べて、再び批判を集めている(参考:Huffpost日本版、CNN日本版)。
「両方の側」(both sides)というのが、ちょうど白人至上主義者が大統領の最初の声明の解釈に用いた言葉であったように(別の記事で触れた)、トランプ大統領の発言は、白人至上主義者グループの言い分をそのままなぞったもの、と言って差し支えない。集会に参加したKKK元指導者のデヴィッド・デュークは「左翼のテロリストを糾弾してくれた」とトランプに感謝の言葉を送っている(The Guardian)。
同時に、トランプ大統領は集会を次のようにも擁護した(同上)。
あの人々全員がネオナチであったのではない、私を信じたまえ。どんなにこじつけたとしても、あの人々全員が白人至上主義者であったのではない。あの人々があそこにいたのは、ロバート・E.リーの像の撤去に抗議したかったからだ。
「血と土」とナチスの標語を連呼するネオナチや、ローブをまとったKKKと大っぴらに一緒になることも厭わないほど、像の撤去の反対に熱心な、しかし、全く人種差別的でない人たちがいたのだそうだ。あからさまな白人至上主義者とぴったり寄り添い、同じ言葉を用い、彼らからも仲間とみなされているが、しかし、間違っても人種差別的ではない人。トランプ氏は、自分のことを話しているのだろうか?
さておき、南軍将軍の像の撤去への反対は人種主義とは無関係だ、という発言の含意は検証に耐え得るのだろうか? トランプ大統領のこの発言に対して、Vox は「誰の遺産か?:南部連合の公的シンボル」と題された南部貧困法律センター(The Southern Poverty Law Center, 以下SPLC)のレポートを紹介している("Whose Heritage?: Public Symbols of the Confederacy", 2016/04/21)。
SPLC「誰の遺産か?」より:
2つのはっきりとした時期に、記念碑やその他のシンボルの除幕の顕著な増加が見られる。
最初の時期は、1900年前後に始まる。新たに自由の身となったアフリカ系アメリカ人の公民権を剥奪し、社会を再び人種隔離するためのジム・クロウ諸法が各州によって定められた時期である。この波は1920年代まで続いた。南北戦争直後に生まれたクー・クラックス・クランの劇的復活を見た時代である。
二つ目の波は、1950年代初頭に始まり、1960年代を通して続いた。公民権運動が人種隔離主義者のバックラッシュを招いたのである。
関連する出来事の最低限のタイムラインをまとめれば、次のようなものだ(参考:上杉忍『アメリカ黒人の歴史』中公新書、2013年)。
1861年:南北戦争勃発
1865年:南北戦争終結
1890年:ミシシッピ州で黒人参政権剥奪立法化(各州のモデルに)
1896年:プレッシー対ファーガソン最高裁判決(人種隔離は合憲)
1954年:「ブラウン対教育委員会」最高裁判決(人種隔離は違憲)
1964年:公民権法成立
Vox の示唆を受けて同じレポートを読んだ Mother Jones のブロガーは、SPLCのデータをもとに簡略版のグラフを作成した上で(上図)、次のように論じている。
なるほど、これらのモニュメントは、南部連合のリーダーたちに敬意を払うために設置されたものではある。だが、建造の時期は、本当の動機が何であったかをきわめてはっきりとさせている。すなわち、黒人に対する白人の恐怖支配を物理的に象徴する、というものだ。〔……〕
これらの像を、敗戦した人々によって凄惨な戦争を記憶するための厳粛な戦後の記念碑として建てられたものである、などと考えるべきではない。それらはもっと後の時代になって建てられたものであり、そのほとんどは、黒人を抑え込み、南部における白人の優越を維持するための組織的で暴力的な試みを露骨に伴うものとしてあったのである。〔……〕黒人がこれらの像を偏狭さと恐怖支配のシンボルとみなすのには理由があるのである。なぜなら、その通りだからである。
【追記】
リンクを張るのみで省略していたが、SPLCのオリジナルのグラフも掲載しておく。このグラフでは、モニュメントを、学校(緑)、郡庁舎におけるモニュメント(青)、その他の場所(赤)と色分けして、1861年から2016年までを1年ごとで表示している。公民権運動時代には、人種隔離をめぐって問題となっていた教育の場で、南部連合を記念する名称を冠した学校が増加するなど、「動機」がよりはっきり透けて見える部分があるだろう。(クリックして拡大表示)
(最終更新:2017/08/25)
【関連記事】
・【海外記事紹介】「私たちは、トランプが白人至上主義者に迎合していないかのようなふりをするのをやめなければならない」(Vox)
0 件のコメント:
コメントを投稿
投稿されたコメントは管理人が承認するまで公開されません。