フレッド・トランプのKKK関与疑惑について

 14日の記事でドナルド・トランプ米大統領の父フレッド・トランプのクー・クラックス・クラン(KKK)関与疑惑について言及した。

 投稿後に、当時の新聞報道の詳細な調査を行っている Vice の1年前の記事の存在を知ったので、簡単に紹介しておく(Mike Pearl, "All the Evidence We Could Find About Fred Trump's Alleged Involvement with the KKK", Vice, 2016/05/11)。

「ローブをまとったデモ行進者」

 話は、2015年9月にブログ・サイト Boing Boing が、ニューヨーク・タイムズの1927年の記事を紹介したところから始まる。その記事には、警官隊との間で乱闘となったKKK集会における逮捕者として、フレッド・トランプの名が住所とともに記載されていたのである。

 ただし、紙面にあるのは「告訴は棄却された」(discharged)という言及のみで、問い合わせに対してニューヨーク市警は記録が保管されていない、と回答しており、Boing Boing も、混乱に巻き込まれただけの可能性もある、と明記していた。

 Vice の記事は、当時の他の新聞を調査し、内容が合致する報道が複数確認できること、加えて、より詳細な情報がいくつか見受けられることを報告している。

 以下、Vice 記事より抜粋:

「Daily Star」という廃刊されたブルックリンの新聞は1927年6月1日に、5月31日のクランの集会を報じた中で、フレッド・トランプは「解散命令を拒んだとの告訴を取り下げられた」と具体的に述べている。記事は7人の逮捕者の名を挙げており、そのうち4人が裁判を受ける見通しで、2人が仮釈放された、と述べている。フレッド・トランプは、告訴されなかった唯一の人物である。


だが、別のすでに廃刊された地元紙「Richmond Hill Record」は、1927年6月3日の記事で、フレッド・トランプを「クランの逮捕者」の一人として、デヴォンシア・ロードの住所とともにリストしている。


「Long Island Daily Press」の1927年6月2日の、集会をめぐる別の記事は、名前を挙げずに7人の逮捕者が出たことに言及し、逮捕された全員がクランの衣装をまとっていた、としている。


「Long Island Daily Press」の記事は、フレッド・トランプに直接に言及していないが、逮捕者の人数は集会についての他の報告と一致している。重要なことに、記事は、逮捕者全員を「ローブをまとったデモ行進者」(berobed marchers)と言及している。


これらの記事のいずれも、フレッド・トランプがクランのメンバーであったと証明するものではなく、Boing Boing が述べたように、彼が集会にただ居合わせただけの人だったということはあり得る。だが、ドナルド・トランプが、彼の父は1927年の事件で告訴されていない、と述べるのは全く正しいが、彼の他の主張、すなわち、フレッド・トランプが「デヴォンシア・ロード 175-24」に住んでいたことはない、という主張や、さらに重要なことに、彼がクラン集会に関わるか巻き込まれるかしたことなど「起こらなかった」、という主張は、真実でないようだ。

 フレッド・トランプは、ローブをまとって参列したKKK賛同者であったのかもしれないし、警官隊が解散を命じている集会の場にうっかり居合わせて、ローブをまとったKKKメンバーと間違われて逮捕される、というチャップリンのような災難に遭う人であったのかもしれないし、ひょっとすると逮捕者全員がローブをまとっていたというのが誤報であったこともあり得るのかもしれない。いずれにしても、子ドナルド・トランプの否認は筋が通らない、ということである。

「そんなことなど起こらなかった」

「全くのデタラメ」
「そんなことは起こらなかった」
「父は関与していないし、告訴もされていない、私自身今まで一度も聞いたことがない」

 父親のKKK疑惑について尋ねられたトランプ氏が、怒気を露わにそう答えたのは、2015年9月のこと(The New York Times)。

Q:あなたは、1927年にデヴォンシアに住んでいたフレッド・トランプが、クー・クラックス・クランの集会が暴力沙汰になったあとで警察に逮捕されている、というストーリーをご覧になりましたか?

A:全くのデタラメだ。私たちはウェアハムに住んでいた。デヴォンシアの通りがあるのは知っているが、私の父がデヴォンシアに住んだことがあるとは思わない。

Q:国勢調査によると、あなたの母上と一緒にそこに住んでいた、とのことです。ともあれ、あなたはこの話を聞いたことはなかったのですね?

A:そんなことなど起こらなかったのだよ。(It never happened.)

 「その話を以前に聞いたことがあったか?」と尋ねられただけだったのだが、トランプ氏は「起こらなかった」(It never happened.)というフレーズを4回も繰り返しており、「告訴されなかった、と書かれている」「聞いたことがない」という他の強調点と、かえって整合性が悪くなっているほどだ。

「グループのことを調べてみないとね」

 ところが、昨日紹介した記事でも触れられていたように、ドナルド・トランプは、2016年2月に、KKK元指導者からの支持について問われた際には、次のようなやりとりをしている(CNNでインタビュー映像を見ることができる)。

タッパー:今週、名誉毀損防止同盟(Anti-Defamation League)〔訳注:反ユダヤ主義防止を目的とするユダヤ人団体〕があなたに対して、KKKの元グランド・ウィザード〔訳注:指導者の称号〕、デヴィッド・デュークの人種主義をはっきりと公的に非難するよう求めたことについて、お尋ねしたいと思います。〔……〕あなたはデヴィッド・デュークを明確に非難し、この選挙で彼や他の白人至上主義者の票は欲しくない、と仰りますか?

トランプ:まぁお分かりだろうが、私はデヴィッド・デュークについて何も知らないんだよ。君が言う白人至上主義や白人至上主義者についてすら私は何も知らないんだ。だから、何とも言えないよ(I don't know.)。なんというか、何とも言えないんだ。


トランプ:まぁ、グループのことを調べてみないとね。なんというか、君が話しているグループのことを私は知らないんだよ。君だって、私自身が何も知らないグループを私が非難することは望まないだろう。調べてみないとね。もし君がグループのリストを私に送ってくれたら、私は彼らについて調査して、何か問題があると思えば彼らとの関係を拒絶するだろうよ。

タッパー:クー・クラックス・クランのことですが……。

トランプ:全く問題のないグループが含まれているかもしれないだろう。そうなったら、とてもアンフェアなことになる。だから、グループのリストを送ってくれたまえ。そしたら、私は君に知らせるだろう。

タッパー:分かりました。私はいまここではデヴィッド・デュークとクー・クラックス・クランのことだけを問題にしますが……。

トランプ:それは何とも……正直言って、私はデヴィッド・デュークのことを知らない。会ったことがあるとも思わないね。会ったことがないのは確かだ。とにかく、彼について何も知らないんだよ。

 父親が関与していた可能性を示唆されて激怒したグループであるKKKのことを半年後に尋ねられると(「クー・クラックス・クランのことですが」と二度も念押しされている)、「調べてみないと、何とも言えない」だったのである。

 繰り返せば、問題は、トランプ氏の父親の過去そのものではなく、現在の彼自身の態度である。


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