「人種主義は悪である」
アメリカのドナルド・トランプ大統領の白人至上主義をめぐる態度、それに対するネオナチからの喝采について、記事を2つ書いたあとで(その1、その2)、2日間の沈黙の末に「KKK、ネオナチ、白人至上主義」を含む「人種主義」を非難する声明が、現地時間14日にトランプ大統領本人から出されたので(参考:CNN日本語版)、会見の映像とともに言及しておく。
President Donald Trump Condemns Charlottesville Days After Giving Original Statement | TIME
人種主義は悪である。人種主義の名のもとに暴力を引き起こすものは、犯罪者・暴漢であり、その中には、我々がアメリカ人として大切にするものすべてと両立しない、KKK、ネオナチ、白人至上主義者その他ヘイト・グループが含まれる。
Racism is evil. And those who cause violence in its name are criminals and thugs, including the KKK, neo-Nazis, white supremacists, and other hate groups that are repugnant to everything we hold dear as Americans[...]
「法と秩序」という問題のすり替え
まず一つ、14日の記事で記したように、事件直後のスピーチには「雇用が……」云々という政権の自画自賛が長々と挿入されていたが、今回のスピーチも経済政策への自画自賛から始まることは記しておくべきであろう。《詳細は午後に話すが、その前にシャーロッツビルでの出来事について一言》、という流れである。まるで1分は自画自賛を含めないと会見ができないかのようだ。
もう一点、より重要なこととして、トランプ大統領はここでキャンペーン中からの約束として、「法と秩序」(“law and order”)の回復、ということを述べている。Netflix のドキュメンタリー『憲法修正第13条』(2016年)に詳しいが、一見簡明な「法と秩序」というこのフレーズは、1960年代にリチャード・ニクソン、ロナルド・レーガンらが主唱して以来アメリカの右派政治家のお気に入りのテーマで、批判者からは、公民権運動への反動として唱えられた、と指摘される言葉である。すなわち、トランプ大統領は今回の会見で、いったんは人種主義を名指しで非難しているものの、通して見ると、〈人種差別と闘う〉のではなく〈秩序を乱す者と闘う〉、というかたちで保守派白人層にとって耳心地のよいフレームにずらしているのだ。その意味では「多くの陣営」(on many sides)発言を焼き直している。
前回紹介した記事とは別の記者によるものだが、Vox の記事が、反人種差別団体への支援の打ち切り、といった実際の政治動向と関連付けながら、この不穏な含意を指摘している(Dara Lind, "Trump says he’s committed to fighting white supremacy. His policies say otherwise." Vox, 2017/08/14)木曜日の最初の声明と、月曜日の発言の両方において、トランプ大統領は、シャーロッツビルで引き起こされた暴力は第一義的に社会的無秩序の問題である、と表明した。一層の治安強化(policing)と治安強化への社会の信頼とによって解決することができる何か、というわけである。〔……〕
トランプは、彼の選挙での成功を思い出させてくれるから、「法と秩序」を全ての解決とみなしているのかもしれない。だが、彼の行政府の他のメンバーたちは、根本的問題は人種主義や白人至上主義ではなく「社会的無秩序」(social disorder)であると信じているから、「法と秩序」を全ての解決とみなしている。
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