憎悪の言語:アレックス・ジョーンズが笑えないワケ

 昨日の映画『Assassination Nation』紹介記事に関連して、映画に劣らず怖い現実世界のサンプルを少々。

 現代アメリカの右翼的なパラノイアといえばこの人、ネット陰謀論番組「InfoWars」のホスト、アレックス・ジョーンズ(Alex Jones)。以下は、トランプ大統領就任一周年目の1月20日に抗議の意思表明として全米各地で再び行われた「女性たちの行進」(Women's March)をめぐって、「デモ参加者を逮捕しろ!」と彼が絶叫しているくだりを実際のデモの光景とミックスした風刺動画だが、「もはや笑えない」とのコメントが寄せられている。

 あからさまなでっち上げや自己矛盾にもかかわらず、そこで展開されている「奴らは我々を殺しに来る」「奴らは地上のクズだ」「軍を出動させろ」という憎悪のロジック(?)は「笑えない」のである。

Alex Jones calls for the arrest of people who oppose Donald Trump - Vic Berger

オースティン、ロサンゼルス、ニューヨークのデモ行進で、我々が話しかけたほとんど誰もが「我々はギロチンを用意する。保守派を殺すんだ。トランプとその一家を殺すし、お前たちを殺す」と言っていた。奴らはみんなをギロチンにかけて共産主義のユートピアを作ろうとしており、「保守派とクリスチャンを殺そう、奴らを殺そう」とうなずき合っている。何十万という連中が行進して、「我々はお前たちを殺す」とうなずき合っているんだ。……さて、奴らはもちろん誰も殺したりはしない。だが! 奴らはそうすることには賛成なのだ! 奴らは地上のクズなのだ! ここにいるのは、筋金入りの本物の権威主義者たちなのだ! 奴らは国を転覆させようとしており、反対派を投獄して拷問にかけ殺そうとしているのだ! 俺に言わせれば、最も安全な対処法は、トランプ大統領に軍隊を出動させて、奴らを逮捕してもらうことだ。我々は非常事態に置かれており、軍にあの連中を逮捕させなければならない。もしジョージ・ワシントンがこんな事態に直面していたら、あの連中を逮捕させているだろうとも。

【追記】(2018/02/01)

 ちなみに、アレックス・ジョーンズは同じ1月に、「トランプとは、ここ数ヵ月話していない。彼の電話に出損ねているんだ。〔……〕俺は朝早起きしないといけない、電話がかかってくるのはその時間なんだから。彼の executive time だ」とも発言している(Media Matters for America)。“executive time”(「重役のための時間」「ぜいたくな時間」などと訳せる)というのは、トランプ大統領が通例より執務開始を遅らせて、一人部屋でテレビを見たりツイッターをしたり友人に電話をかけたりしている朝の時間、の通称として報じられたもの(Axios)。ジョーンズはこういう人物なので、単なるデマカセの可能性もあるが、トランプもああいう人物なので、真偽どちらにしろ、想像するだけで悲惨な光景である。

(2018/02/01最終更新 ※追記と訳文の若干の修正)

2 件のコメント:

  1. 全てを知りたい人2018年8月27日 22:06

    櫻井ジャーナルとマスコミに、載らない海外記事で見かけましたが、

    そもそも陰謀論者と言うレッテル張りは、ネット右翼の在日認定と同じなんですよね。

    反論出来無いからこそ、レッテル張りをして逃げると言う。
    そしてそんな彼等は、ロシア憎しの為に何でもかんでもロシアのせいだと、
    ロシア陰謀論を唱え続ける矛盾に気付かない。

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    1. コメントに気が付くのが遅れてしまい、失礼。

      「陰謀論者」というレッテルを用いることにためらいを感じないわけでもないですが、「InfoWars という誤った情報と怪しげなサプリを押し売りする番組のホスト」とか言い換えたら何か変わるのか、という問題でもあります。ジョーンズについていえば、元妻との親権裁判で、彼の弁護士は「あれはパフォーマンス・アートだ」というかたちでジョーンズのキャリアを弁護したそうなので、「パフォーマンス・アーティスト」と呼ぶのが正確なのかもしれませんが。
      https://www.buzzfeednews.com/article/charliewarzel/jones-trial-verdict

      「陰謀論」という言葉は、1960年代に、政府批判の信用を貶めるためにCIAによって意図的に広められた、というランス・ドゥヘイヴン‐スミス(Lance deHaven-Smith) の2013年の指摘以来、「陰謀論」と切り捨てると、「お前はCIAのカモか?」などと反論が来る、という光景がお決まりになったようです。ただ、ドゥヘイヴン‐スミスの指摘に対しては、「陰謀論」という言葉の現代的用法はそれ以前から見られる、との批判もあります。
      https://www.csicop.org/specialarticles/show/nope_it_was_always_already_wrong

      田中聡『陰謀論の正体!』(幻冬舎新書)に、陰謀論と陰謀論否定者の両方が、相手に「目覚めてほしい」と考えるため、啓蒙的な態度ひいては権威主義的な態度に陥りがち、との指摘があり、同感ですが、とはいえ、現象を分析するうえで、ある種の言論を「陰謀論」というカテゴリーで論じることは有益と考えます。

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