【ゲームレビュー】『Slayer Shock』:恋するヒマのない十字架

作品名:Slayer Shock
開発元:Minor Key Games
発売年:2016年
PC(Steam

 TVシリーズ『バフィー〜恋する十字架〜』(Buffy the Vampire Slayer)を彷彿させる、ヴァンパイア・スレイヤーの女の子が主人公の一人称視点の3Dステルス・アクション・ゲーム。『Eldritch』(2013)、『Neon Struct』(2015)で好評を博したデヴィッド・ピットマン(David Pittman)とMinor Key Gamesの最新作。

 ストーリーはなきに等しく、システム、グラフィックスともにいたってシンプルな作りで、1980円という定価に割高感は否めないし(私は30%オフのセールで購入)、全体としてどこか未完成な印象を受けるが、ゲームプレイのスピード感には心地よい中毒性がある。とはいえ、やりこみ要素は薄く、1週間か2週間、チョコチョコと短い時間で数時間ほど遊ぶうちにピークが過ぎるゲーム、といった印象。

テキパキとした、軽めの「ごっこ遊び」として

 作者デヴィッド・ピットマンは、公式プロフィールによると、『バイオショック2』(2010)などメジャー・タイトルの開発に携わったのち、インディー・ゲームに活躍の場を移したクリエイターで、『Eldritch』から本作まで、ステルス要素を重視した女性主人公の一人称視点ゲームを三本発表している。ラヴクラフト的ホラー、監視をめぐるSFポリティカル・スリラー、そして今回の『バフィー』、と借用する意匠をその都度変えてはいるが、操作性はほぼ同一で、「同じゲームを作り続けている」と評しても、決して悪口にはならないだろう。一つのゲームプレイの形をひたすら追求している彼自身の姿が垣間見えるわけで、むしろ好感が持てる。

 ゲームの流れは単純そのもの。スレイヤーとなるべき素質を備えた「選ばれし者」となって(名前は不明、肌の色とマニキュアの色をいつでもカスタマイズ可能)、アジトのコーヒー・ショップでミッションを選び、自動生成(procedurally generated)のマップで各種ミッションをこなす、その間に、手に入れる報酬(アイテムの設計図や、お金代わりとなるヴァンパイアの灰)を使って、スキルや装備をアップグレードし、さらにはヴァンパイアの群れを率いているボス(Big Bad)の正体・居場所を突き止め、最終的に対決する。これがTVシリーズ風に「シーズン」として一つのサイクルを形成しており(ミッションは「エピソード」として数えられる)、一つのシーズンを終えると、また新たなボスと闘うべく次のシーズンが始まる。5シーズンを終えると、進行がリセットされ、次の「ジェネレーション」に移る。ミッション失敗を繰り返してマップ全体がヴァンパイアに制圧されない限り、ゲームは終わりなく続くようだ(主に「Normal」難易度でプレイしたので、自分の目でゲームオーバーの存在を確かめてはいないが)。

 このゲームが特徴的なのは、起動からキャラクターの動きまで、ゲーム全体がとにかく速いこと。ミッション自体も、難易度「Normal」なら、5分もあればまずケリがつく。そうして、暗闇を駆け抜け、スライディングしながら背後からの一撃でヴァンパイアを次々と葬っていくときの爽快感はわりとクセになる。

 個人的に、『Neon Struct』を含めてステルス・ゲーム全般に対して抱く不満として、ゲームプレイのあり方が〈パターンを把握しタイミングを見計らって行動、時にはAIの弱点を突く〉という観察と忍耐とAIの頭の悪さの問題に集約されてしまう点がある。『Slayer Shock』にあるのは、カジュアルなステルス、とでもいうか、よくも悪くも、大雑把なプレイに寛大な、気分を楽しむ「ごっこ遊び」としてのステルス要素だといえよう。

どこか未完成な印象

 このゲームの最大の問題は、1~2時間ほどでゲームに用意されている中身のほとんど全てが見えてしまうことだ。マップの種類も敵の種類も武器の種類もほぼ出尽くしてしまい、スキルツリーも難易度「Normal」なら3時間もしないうちにすべてを取り終えてしまうだろう。最高難易度「Expert」も試しに触ってみたが、かえって不毛さや理不尽さが強調されるばかりで、とくにゲームプレイの奥行きが増すようには思えなかった。

 キャッチコピーには「チームを結成し、ヴァンパイアを狩って、君の町を救え!」(Assemble a team, hunt the vampires, and save your hometown!)とあるが、酷な言い方をすれば、真ん中の一つ以外は存在しない。

 まず、チームについていえば、『XCOM』ばりのとは言わないまでも、各ミッションの合間になにかチーム・マネージメント/基地マネージメント要素があるのかと期待していたが(ピットマンは『XCOM』シリーズのスピンオフ『The Bureau: XCOM Declassified』の開発にも携わっている)、アジトとチームの存在は、ミッションの合間に立ち寄る場所とその付属機能としてのものでしかないのである。ランダムな外見と名前が与えられた仲間がアジトとなるコーヒー・ショップで文字通り立ったり座ったりしているだけなのだ。
 「AとBは最近仲がいい」「Cが一人で出かけて帰っていない」といったランダムイベントが時折メッセージとして現れるが、全くランダムに起こってランダムに進展するばかりで、こちらが干渉できる要素はない。そうして主人公/プレイヤーの与り知らぬところでメンバーが死ぬこともあるが、救出ミッションの報酬として代わりのメンバーがランダムに現れて穴を埋める。チームに対して感情移入を抱くことはほとんどないだろう(というより、名前すら記憶できない)。

 あるいは、愛着を持ち得ないのは、「町」についても同様だ。立ったり座ったりしているだけの仲間が待つコーヒー・ショップとヴァンパイアがウジャウジャ沸き続ける自動生成のミッション・エリアを行き来するだけなので、そもそもそこに人の暮らす空間がある、と感じることすら難しい。あるエリアでのミッションを選択すると、他のエリアの危険度が上昇する、という『XCOM』風の仕組み(というか、それを思いっきり貧乏にした感じのもの)が採用されているが、プレイヤーにとって、どのエリアも単なる「ミッション・エリア」以外の何物でもないのである。プレイヤーは名前すら与えられない主人公のスレイヤーが昼間何をしているのかも知り得ないわけで、ロールプレイも困難だ。たとえば、これが、普段はランダム生成のマップでミッションをこなしつつ、エリアごとのヴァンパイアの増殖が進むと、学校や自宅近辺といったスレイヤー自身の生活圏にも脅威が迫る、とかだったらもっと面白いのに、と思う。

 物足りなさ、という点では、せっかくの「現代+ヴァンパイア」という美味しい題材が活かされていないのも残念。その点はさしあたり、世界観を感じさせるようなアート・スタイルの欠如、として指摘できる。敵のモデリング自体に視覚的な魅力が乏しいが、これはグラフィックスそのものの問題というより、過去二作では選択されたアート・スタイルとして機能していたシンプルなグラフィックスが、本作ではどこかアート・スタイルとして受け取りにくい、という問題だろう。『Eldritch』や『Neon Struct』では、シンプルなグラフィックスの与える質感が、ラヴクラフト風のモンスターや監視社会の警備員という敵キャラの背負う作品の世界観とマッチしたものとして感じられたのだが、本作では、シンプルなグラフィックスが(ありきたりの)「敵キャラ」という以上の奥行きを感じさせないものとなっているのである。ヴィジュアル面をさておいてメカニカルに眺めたところで、人気のないマップをウロウロしているばかりのこのヴァンパイアたちは、いったいどういう社会を営んでいるのか、まるで想像をかきたてる妖しさがなく、致命的なことに、肝心のボスも体力が高いという以外の違いが見当たらない(ボスは必ず弱点と耐性を持つのだが、いずれも無視できる範囲の効果で、乱戦になりがちなこともあって、初回以降、気にした試しがない)。

 自動生成のマップに開錠ミニゲーム付きの鍵のかかった扉・宝箱をこれでもかと投入する感覚もちょっとわからない。開錠ミニゲーム・フェチかなにかだろうか?

結論

 不満点ばかり列挙してしまったが、短い時間でサクサクと遊べる一人称視点のステルス・アクション・ゲームというコンセプトに魅力を感じるならば、触ってみて損はない。ただ、割高と感じるかを別としても、開発者が将来的なアップデートをほのめかしてもいたりもしていて、大幅なセールを待つのが得策、というのが率直な印象でもある。

 主に難易度「Normal」で、7時間ほどプレイ。実績87%解除。日本語非対応だが、よくもわるくもセリフに重要性はなく、装備やスキルの説明も単語程度の理解で十分なので、基本的な流れさえつかめれば、英語は不要かと。


Slayer Shock Launch Trailer