【海外記事紹介】「解説:FBIのアンチ・クリントン叛乱」(Vox)

 アメリカの大統領選がなにやら不穏だ。というと、何をいまさら、なのだけれど、候補の話ではなく、FBIの話。

 選挙の投票を11日後に控えた10月28日に、FBI長官が、「訴追を求めず」と打ち切っていたはずのヒラリー・クリントン候補のいわゆる私用メールサーバー問題に対する捜査の再開を連邦議会に通知して物議をかもし、その後11月6日になって、「訴追を求めない」との方針に変更はない、と声明を出した。
 これが大統領選とFBIをめぐる最近のトップ見出し的なストーリーだが(CNN日本語版のこの記事この記事を参照)、長官のこの不可解な行動とは別のところで、「全面捜査に踏み切るだけの十分な証拠を持っている」だの「起訴状がすぐにも出る」だのとメディアに放言するFBI職員たちが現れているのだという。
 後者はデタラメと判明しているが、こんなあからさまにいかがわしい情報でも飛び交えばクリントン陣営に十分ダメージを与えられるわけで、だからこそ、FBIをめぐる一連の動向が不穏に映るのである。

 Voxの記事「解説:FBIにおけるアンチ・クリントン叛乱」(Yochi Dreazen, "The anti-Clinton insurgency at the FBI, explained")は、一連の騒動から垣間見える、不気味過ぎてほとんどシュールなFBI内党派の存在と彼らの暴走が引き起こす危険について論じている。

最近の一連のFBIのリークは、とりわけ気がかりなものだ。なぜなら、それらは、あらゆる手段と連邦政府の捜査権限を備えた国家の治安機関が選挙に干渉しようとしている可能性を示唆しているからだ。FBIは、裁判所の承認のもと、召喚状を発行し、電話を盗聴し、eメールを傍受し、24時間監視を行うことができる。FBIはあまりにも強力で、ほんの小さな職員の仲間内のグループですら政治的プロセスに影響を与える方法を見つけることができるほどなのである。

 むろん、今回の騒動は、FBIが組織として一枚岩に反クリントンに動いている、といった単純な話ではなく、ある意味ではより厄介な状況を示唆しているのだと記事は論じている。すなわち、外部の専門家たちの見るところ、メール問題の捜査再開というコミー(James Comey)長官の動きをゴーサインと受け取ったFBI内の小党派が、長官のコントロールをも超えてクリントン攻撃に邁進している、という見方が有力だというのである。

「彼〔コミー長官〕の行動は先例のないものであり、非倫理的であり、ショッキングであるばかりか、空前の数のリーク、というかたちで明らかに局内に無秩序をもたらしています。そして、私たちの選挙のサイクルにまで無秩序をもたらしているのです。」ペンシルベニア州立大学の歴史学教授、ダグラス・チャールズ(Douglas Charles)はこう語る。 J.エドガー・フーバー長官時代のFBIについての本の著者であるチャールズは、コミーはクリントンと長い因縁があり、そのことが彼に、ヒラリー・クリントンの選挙戦を狂わせようとする「個人的な恨みや、裏に隠された政治的な動機」を遺したのかもしれない、と言う。
FBIは、チャールズやミラーのような専門家が、不釣り合いな数の共和党員やその他保守主義者、と呼ぶものを内部に抱えている。
ガーディアンに対してある匿名の職員が語ったところによると、クリントンのことを「反キリスト」(the anti-Christ)とみなすFBI職員たちがおり、「彼らがリークをやっている理由は、彼らがトランプ支持者だから」なのだという。FBIは「トランプランドなのです」、とその職員は語る。

 なお、Voxは別に「真のクリントン・メール・スキャンダルとは、たわごとめいたストーリーが選挙戦を占領してしまったことだ」という論説も発表している。実際、不適切ではあれ不正の証拠など(FBI含めて)誰も見つけていないメール問題が延々と未だに持ち出されていること自体、奇妙な光景。ヒラリー・クリントンに対する執拗な攻撃の一方で、共和党政権時代に党運営のプライベート・サーバーをホワイトハウスで用いて2200万通ものメール記録を「なくした」ことについて、ジョージ・W・ブッシュ元大統領やディック・チェイニー元副大統領らがロクな追及も受けていないのは、ダブルスタンダードの極みだ、との指摘(Newsweekの記事)もある。