【ゲームレビュー】『Virginia』:ゲームゆえの映画的感動

作品名:Virginia(ヴァージニア)
開発元: Variable State
パブリッシャー: 505 Games
リリース:2016年
PC(Steamにて購入、PS4、Xbox One

 感想を一言でまとめると、アドベンチャー・ゲームと思って始めてみたら、全く別の何かだった、とてつもなくよい意味で。こんなにも濃密な映画的感動を味わったのは、なかなか久しぶりの気がする。しかし、それを与えてくれたのは、映画ではなかったのである。

 デモ版を触って、これはおもしろい、と思ったが、ストーリー面でもゲームプレイ面でも、だいぶ予想を裏切られた。繰り返すが、よい意味で。傑作を予感しつつ、まさかこんなにも大胆な作品とは思わなかった。

 感想がいまひとつまとまり切らないが、初回プレイの印象だけでも書き留めておこう。

【更新】(2016/10/16)
ネタバレありのストーリー解釈を別に投稿したので、プレイ済みの方はそちらもあわせて参照願いたい。
一人称視点で見る映画?

 「どういうゲームか?」とたずねられたら、「一人称視点で見る映画」と言ったほうが、イメージとしては近いかもしれない。プレイヤーの役割は基本的に「見る」ことに尽きる。全編ジャンプカットが多用され、夢や幻想、フラッシュバックも序盤から頻繁に挿入され、画面内で起こる出来事に対して、プレイヤーが影響を及ぼせる場面はゼロに等しい。というより、場面そのものが、プレイヤーにとってコントロールの効かないものとして次々に現れては過ぎ去っていくのである(冒頭のテロップで「事件の公式記録に基づき、この物語はつづられる」と、物語全体が《すでに起きた出来事》として語られているのは、示唆的だ。「曜日」が与える、一見直線的な時間の流れに惑わされてはいけない)。

 場面内を歩き回る、周囲を見回す、という基本操作を除いて、各場面でプレイヤーに要求される動作は、握手をする、モノを拾う、といった瞬間のときおりのクリックのみである。選択肢が提示されることもなく、「ゲームプレイ」という観点からいえば、ゲームの性格はきわめて一本道、直線的なものである。

 そう書くと、「見るだけのゲームか」と思われそうだが、他のゲームのいわゆるカット・シーンのようなものを思い浮かべるなら明確に誤りである。その点で特筆すべきは、キャラクターたちがセリフを一切発しないことであろう。セリフが存在しないことによって、プレイヤーはつねにアクティヴに「場面を読む」ことを要求されるのである。
 「月曜日」から始まる曜日の表示を除いて、時間的な経過や場所の移動を示唆する情報もなく、一人称視点でありながら、自分がいまどこにいるのか、プレイヤーは無言の主人公に代わって前後の場面との関係を判断しなければならない。

 そういう判断は、実のところ、私たちが映像作品を見るとき、普段から行っていることなのだが、同じ映像技法が一人称視点のゲームというかたちに組み込まれると、新鮮な印象を与える。一人称視点の主体であり、かつ場面の一部でもあるところの主人公との一体感と距離感とが、プレイヤーに自身の解釈の介在とその不確かさとを繰り返し意識させるのである。「一人称視点で見る映画」(らしきもの)は、見慣れた映画の技法の意味合いを変えてしまうわけだ。
 その意味で『Virginia』は、やはり映画とは異なる、「プレイヤー」として体験するゲームならではの作品であると思う。その「映画っぽさ」は、映画でないからこそ達成されたものであり、そこには、いわば「映画では味わえない映画的な感動」があるのである。

(なお、「プレイヤーのインプットがほとんど要求されない? そんなのゲームじゃない!」という方には、逆方向にミニマルな『Devil Daggers』を代わりにオススメする。0.01秒の精度まであなたのインプットを貪欲に求めてくれるはずだ。)

戸惑いを誘うが、決して難解ではない物語

 「どういうストーリーか?」となると、より説明がややこしくなってくる。物語の舞台は1992年のアメリカ、プレイヤーが操作するのは、ヴァージニア州の田舎町で起きた失踪事件の捜査にあたる新米FBI捜査官アン・ターヴァーである。実は彼女にはもう一つ使命が課せられているのだが、物語は、主人公アンが行っているこの二つの調査そのものに主眼を置いているわけではない。繰り返すが、あくまで捜査官の視点に立つだけで、プレイヤー自身が事件を捜査したりするわけではないのだ。

 物語の主軸は、失踪事件を共に担当するベテランの女性捜査官と主人公アンとの信頼関係に置かれている、と一応は言えるが、その展開の仕方は独特だ。発売前、デヴィッド・リンチ監督のTVシリーズ『ツイン・ピークス』を思わせる雰囲気が話題となったが、その第一印象に違わず、『Virginia』の映像世界は、後半になるにつれ、入り組んだ迷宮的な装いを呈していく。この展開にますます引き込まれていくか、置いて行かれたと感じるか、で評価が分かれるだろう。

 正直、私はラストの15分ほどの出来事について、いまのところ十分に満足な説明を用意できていない。だが、後半にかけて、私をますますゲームに没入させていったのは、なにか解読されるべきプロットというよりも、目の前を過ぎ去っていく瞬間、瞬間がどうしようもなく愛おしい、というシンプルな感情だった。一つ一つの場面にみなぎる情念が、続く場面をかくあるべき必然的なものと感じさせてくれたのである。そして、ラスト・カットの謎めいた印象の一方で、エンドクレジットを迎える瞬間にあったのは、当惑よりも、心地よい満足感であった。戸惑いを戸惑いとしたまま、そこにある物語を、すんなりと受け入れることができたのである。

 この感動には、映画音楽風の壮麗なスコアが一役も二役も買っているだろう。繰り返される印象的な旋律が、目まぐるしい場面の交差を一つの力強い感情へと見事にまとめあげていくさまは、『ファウンテン』(2006)、『クラウド・アトラス』(2011)といった映画を思い出させる。

 私の解釈をネタバレ抜きで仮説的に述べておこう。
 (【2016/10/16追記】ネタバレのストーリー解釈はこちら

 (1)《すでに起きた出来事》として過去形で語られていること(2)一貫して一人称視点であること、この二つの前提をごく素直に受け止めれば、物語をそれほど難解に受け止める必要がないことが分かるだろう。展開されているのは、主人公アンの現在進行形の直線的な時間の物語ではない。しかし同時に、あくまでも彼女によって主観的に経験された出来事であり感情なのである。
 ゲームが過去形で語っているにもかかわらず、プレイヤーが操作する時間をリアルタイムと錯覚するところから、あるいは、一人称視点として与えられている物語をわざわざ三人称に置き換えて理解しようとするところから、混乱が生じるのである。それは、物語そのものの錯綜というより、ゲームならではのインタラクティヴな特性を巧みに利用したところから来る錯綜なのである。

結論

 形式的にも内容的にも型破りの傑作。物語を体験させるメディアとしてのゲームに関心がある人や、あるいは普段あまりゲームに興味のない映画ファンにオススメの一品である。私自身は、インディー・ゲーム・ファンとしても、映画ファンとしても、思いがけない新しい体験にうならされた。私にとっては始まりから終わりまで満点に近い内容で、あえて欠点を指摘するなら、一部のフラッシュバックが説明的過ぎるように感じられたことくらい。賛否含めて、今後登場する作品に確実に影響を与えるだろう。

 所要時間は2時間ほど。Steamの記録によると、私は109分で終えたらしいが、未解除の実績が多いので、見落とした要素もあるようだ。見落とした要素のため、というより、体験そのもののために、私は確実にもう一周、もう二周プレイする。

Virginia - Cinematic Trailer

 なお、余談として、エンドクレジットでは、『Thirty Flights of Loving』とその作者ブレンドン・チャン(Brendon Chung)に対して献辞が捧げられている。私は本作のあとに購入して初めてプレイしたが、一人称視点のゲームプレイに映画的な場面転換を大胆に取り入れた10分ほどの実験的な作品である。絵柄的にも演出的にも、3D空間のゲームプレイと映画的編集とのより荒々しい融合といえ、ますます人を選びそうだが、本作とはまた違ったおもしろさがあるだろう。

日本語化について(2016/09/29追加)

 初回プレイ時、「テキスト翻訳」をうっかりオフにしていて(体験版プレイ時の設定が適用されてしまっていたらしい)、コメントできなかったので、日本語対応について追記。

 二周目を翻訳付きでプレイしてみたが、インターフェースとして、まるでいい印象を受けなかった。もともと文章を読む箇所自体ほんの数カ所で、それも、必ずしもじっくり読むように意図されていないわけだが、ゲーム中数えるほどの回数だけ唐突にこちらの視線に合わせて英文の上にかぶさってくる日本語文は、読みづらく情報として全然頭に入って来ない上、映像の統一感を乱し、目ばかり疲れさせる。

 翻訳自体いまいちで、FBI施設内の“Office of the Assistant Director”を「アシスタント・ディレクター事務室」と機械的に翻訳しているが、「部長室」とでもすべきだろう(FBIの“Director”は「長官」である)。テレビ局のADじゃないんだから。

 実験的な作品だけに、ローカライズするなら、きちんと時間をかけてなされるべきものであって、なぜ日本語版の同時リリースにこだわったのか、正直よく分からない。それほど言語の敷居が高いゲームではないし。この日本語化は残念な出来。


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